夏休み最期の肝試し
よくあるネタですみません><
一昨年くらいの夏に適当に書いたのを引っ張り出してきました。
季節は夏。学生の俺は宿題を抱えこんだまま夏休みを終えようとしていた。夏休み当初は宿題をすぐに終わらせようと机には向かっていたのだが、夏特有のうるさい鳴き声とどうしようもない暑さが俺のやる気を削ぎ落としていき、結果今に至る。
八月三十一日、夏休み最後の日だ。とりあえず少しは手をつけておこうと、涼しい図書館へ宿題のたんまり入った鞄を背負いながら自転車のペダルを必死に踏んでいた。
ちょうど図書館手前の急な坂道を一気に上り、顔中に吹き出した汗をタオルで拭っていたその時だ。
チャラララ…と流行りの歌が俺の携帯から流れる。電話だ。
電話の相手は見なくても分かる。俺は画面を見ることもなく、携帯を耳に当て通話ボタンを押した。
案の定、悪友からの電話だった。電話を切った俺は、携帯をしまいながら溜息を漏らす。
今日の23時に近くの墓地に集合、悪友はそう言ってすぐに切った。俺は一言でも喋ったか記憶にない。何をやるのかは言われなくても想像はつく。
肝試し。全くもってくだらない行事だ。何が哀しくて自分の肝を試さなくてはならないのだろう。怖いものは怖い、それでいいじゃないか。ちなみに俺は別に、肝試しなんて怖くない。
結局図書館での勉強は、肝試しの面子は誰だろうかなどと気になり、ほとんどはかどらなかった。
まぁどうにかなるだろう、宿題なんて。
深夜23時10分前、近くの墓地は自宅から遠いので余裕をもって自宅を出たらもう着いてしまった。周りを見渡しても誰もいない。あるのは暗がりの中に広がる墓だけだ。他の誰かが来た様子もない、一番乗りのようだ。
持参したペットボトルのお茶を口に含みながら、携帯のアプリで時間を潰していると、ようやく悪友が深夜だというのに騒音を鳴らしながら車でやってきた。時刻は23時10分、悪友にしてはまだ早く来ただろう。
悪友が連れてきた女を交えた合計4人。一応雰囲気を出すつもりか、そこら辺にあった石に座り込み、悪友がこの墓地に纏わる都市伝説らしい事を話し出す。女が黄色い悲鳴を上げるが、俺からすれば鬱陶しいだけだ。
悪友の話を要約すると、最近、夜にこの墓地を訪れた人間が忽然と消えてしまうらしい。悪霊が生きた人間を妬み、道連れにと地獄へ引きずり込むのだとか。 くだらない。こんなことのために俺は付き合わされたのか。適当に終わらせて宿題の続きをしたいものだ。
あれこれ考えている内に男女一組になって墓地の奥に人形を置きに行く話になっていた。俺のペアの女は悪友にベタ惚れの女。非常につまらん。
先に悪友のペアが行ったので俺達は適当に帰りを待っていた。女の方が悪友の話ばかりしてくるので、俺は適当に相槌を打ちながら、また携帯アプリで遊んでいた。しばらくして女が遅いねーなんて言い出すものだから時刻を見てみると、0時30分を表している。 悪友達が発ったのは12時前だからかれこれ40分近く経過している。まぁ確かに遅いが、盛り上がって茂みの中でチョメチョメしてるんじゃないかと想像できる。が、悪友にベタ惚れの女に言うのは忍びないので、とりあえず形だけでも見に行く事にした。
悪友から渡された古臭い懐中電灯を片手に暗がりの墓地を進んで行く。女が俺の腕をしっかりと掴んで離さないのも、俺に女の心が靡く可能性が皆無な以上、僅かに当たる胸の感触を楽しむのが精々だ。
しかし、墓が並んでいるだけで本当に何もない。幽霊なんている気配もなければ、悪友達がいる気配もない。
なるほど、俺達に探しに来させて逆に脅かすつもりだな。簡単にオチが読めた。普通のこの展開ならこのオチの可能性が九割を越えるだろう。俺は溜息を吐いたが、女の方は悪友の話を信じているらしく、不安で仕方ないと言わんばかりに手を僅かに震わせている。 さて、あいつらが出てきたら大袈裟に驚いてやろうかねぇ…と思ったが、悪友を調子に乗らせるだけだから却下だ。とりあえず奥に人形を置いたら帰ろう。宿題の悪あがきをしておきたいからだ。
歩き始めて5分は経った頃だろうか、突然懐中電灯の明かりが消え、俺達は暗闇に包まれた。カチカチとスイッチを触っても反応がない。電池切れではなさそうだが…まさか、これも演出なのか?
ふと気付けば、さっきまで俺を掴んでいた女の手がなかった。声を掛けても返事はない。
どうやら全員グルで俺を怖がらせようとしているらしい。そう考えると、今ここでこうしている事自体バカバカしくなった。とは言えすぐにUターンして帰ると臆病者とからかわれるだろうから、やはり当初の予定通りさらに奥へと歩いた。懐中電灯が使えなくなった以上、唯一の明かりは携帯のフラッシュだけだが真っ暗を照らすには十分な明るさだった。
さらに暫く歩くとようやく墓地の一番奥にたどり着いた。悪友が昼間に来たのだろう、墓の上に人形が置けるスペースが確保されていた。だが、髑髏のハンカチの上に髑髏の人形を置かせるのは悪趣味だろう。もう少しマシな人形はなかったのかと思いながら、俺は人形をハンカチの上に置き、スッと踵を帰した。
その瞬間だった。
カタカタカタカタカタ。
突然背後から鳴り出した奇妙な音。振り返らなくても分かる、さっき置いた髑髏の人形のスイッチが置いた拍子に入ってしまったのだろう。
俺は腹が立って振り返り、髑髏を睨みつけた。案の定、カタカタという音は人形が出していた。歯と歯が触れ合う事で出る音。気味が悪い。
ズカズカと人形に歩み寄ると、俺は人形のスイッチを探した。背中にあったそれをオフにすると、人形はさっきまでのように大人しくなる。
さぁ帰ろうと再び踵を帰した、その時だ。
カタカタカタカタカタ。
…近くで悪友が遠隔操作でもしているのか、俺が人形に背を向けた瞬間、また人形が歯を鳴らし始めた。 人形を叩き潰してやろうかと思ったが、もっと平和的な解決方法を思い付いた。
電池を抜けばいいのだ。
俺は早速行動に移し、人形を握ると背中を見た。スイッチが再びオンになり、そのスイッチのすぐそばに電池ボックスがあった。
スイッチをオフにした後、俺は電池ボックスの蓋を開いた。
蓋がそのまま地面に音を立てて落ちた。俺はそれを拾う事もせず、電池ボックスの中を凝視していた。
電池が、入っていなかった。
思考回路を巡らせてこの現象を理論的に説明できないか考えて見るが、無理だった。電池もなしに人形が動くはずがない!
突然、人形の首が回った。180度、つまり背中に顔がある状態だ。
その口が、ゆっくりと言葉を放つ。
アナタ、誰。
酷く掠れた低い女の声だった。俺は慌ててその人形を地面にたたき付け、一目散に走り出した。
なんだこれ、ありえないありえないありえないありえない!
悪友の悪戯にしちゃ高度な悪戯過ぎるし、何より気味が悪い。怖がりだと馬鹿にされてもからかわれたっても構わない、とにかくこの墓地から離れたかった。 一体何分くらい走っただろうか、まだ出口は見えない。それどころか同じ景色が延々と続いているような気がする。入口から奥まで歩いて20分も掛かっていない。おかしい、そろそろ墓地を抜けるはずなのに。 暫く走り続けると体力が限界を迎え、俺は一旦立ち止まり上がった息を整える。額から零れる滝のような汗が音もなく地面に吸い込まれていく。
ふと周りを見回してみる。墓が続くだけで特に変わったところはない…と思っていた。だが、俺の目は一つの墓石に釘付けになった。
その墓石に、悪友の名前が刻まれていた。いや違う。何も書かれていない墓石に、赤い文字で悪友の名前が書かれているのだ。
俺は、また柄にもなく怖くなって走りだそうとした。だが、足が動かなかった。
金縛り…いや違う、明らかに存在のある何かが、俺の両足を掴んでいるのだ。
恐る恐る下を見てみる。
地面から這い出した、腐ったような手が俺の両足を掴んでいた。
俺は、生まれて始めて恐怖のあまり絶叫した。
目が覚めた時、俺は自宅のベッドの上で見慣れた天井を眺めていた。もそもそと起き上がり、欠伸を一つかます。頭をボリボリと書きながら、俺は部屋の時計を見た。
九月一日、七時。夏休みが終わり今日から新学期が始まる。
アレは夢だったのだろうか。しかし、どこからが夢だったのだろうか。記憶が非常に曖昧だ。
テレビをつけ朝のニュースを聞き流しながら、悪友に電話をしようと携帯を開いた。
留守番メッセージがあります。
携帯の画面に現れた文字、時刻は…今日の0時30分、悪友からだ。
全身に鳥肌が立ち、背筋にゾッと冷たいものを感じる。
俺は恐る恐る携帯の留守番メッセージを聞いた。
ただ、悲鳴だった。
聞いたことのない、悪友の絶叫だった。
気味が悪くなって、俺は携帯を手放し、慌てて自分の両足を確認する。夢じゃなかったとしたら、そこには…。
そこに、あった。
俺の両足には、強く掴まれた人の手形がくっきりとついていた。
思わずまた叫びそうになるが堪え、記憶を整理しようと何気なくテレビを見た。
テレビは、砂嵐になっていて何も映っていなかった。ただ雑音だけが流れ、そして…。
アナタ、誰。
記憶に新しい酷く掠れた低い女の声と同時に、テレビには火傷で醜く爛れた長髪の女が映り、俺を見て笑った。
完