第十六話「触れているもの」
第十六話は、
“触れる”ことに成功する回です。
だがそれは、
まだ“届いていない”段階。
ほんの一歩手前です。
「……間に合ってない、ってなんだよ」
嵐が吐き捨てる。
苛立ちと、
わずかな焦り。
蒼真は、答えない。
視線は——
“糸”。
薄く。
だが、確かに残っている。
空間に、張りついている。
「……あいつは」
小さく、呟く。
「これを、見てる」
「は?」
嵐が眉をひそめる。
「見えてるのか?」
「違う」
蒼真は首を振る。
「“見てる”んじゃない」
「触れてる」
その瞬間。
空気が、歪む。
遅れて——
気配が来る。
無月。
同じ位置。
同じ距離。
同じ“始まり”。
「……対象、再確認」
変わらない声。
「排除、継続」
「チッ……!」
嵐が動こうとする。
「待て」
蒼真が止める。
「今度は、俺が行く」
「……やれんのかよ」
「やるしかない」
構える。
呼吸を落とす。
視線を合わせる。
無月。
その奥。
“糸”。
微かに——
揺れている。
「……そこだ」
踏み込む。
一直線。
迷いはない。
刀を振る。
無月ではない。
その“先”。
空間へ。
次の瞬間。
“触れた”。
わずかに——
だが確かに。
空気ではない。
何かに引っかかる。
浅い。
だが——
違う。
無月の姿が、ズレる。
いつも通り。
だが。
「……今の」
嵐が目を細める。
「ズレ方が……」
違う。
ほんのわずかに。
だが確実に。
“遅れた”。
無月が、一歩踏み出す。
音が、遅れる。
その遅れが、
さらに、伸びる。
「……効いてる」
蒼真が呟く。
確信ではない。
だが——
手応えがある。
「もう一度!」
踏み込む。
同じ位置。
同じ軌道。
同じ“糸”。
斬る。
今度は、深く。
だが——
届かない。
直前で。
ズレる。
消える。
「チッ……!」
嵐が舌打ちする。
「惜しいだろ今の!」
「ああ」
蒼真が息を吐く。
「でも、足りない」
無月が、動く。
腕が振られる。
嵐が防ぐ。
「ぐっ……!」
変わらない。
重さも、
精度も。
ズレがない。
蒼真は、見ている。
無月ではない。
“その外側”。
糸。
揺れている。
連動している。
「……やっぱりか」
「こいつは」
無月を見る。
「自分で動いてない」
嵐が、息を吐く。
「命令、だろ」
「ああ」
蒼真が頷く。
「でも——それだけじゃない」
視線が、鋭くなる。
「命令を、通してる」
「……は?」
「“これ”を通して」
糸。
わずかに、
震える。
無月の声が落ちる。
「優先順位:対象」
変わらない。
だが——
その直前。
一瞬だけ。
“揺れた”。
「……見えた」
蒼真が呟く。
断片。
ほんの一瞬。
だが確実に。
「そこに、通ってる」
理解が、
形になりかける。
嵐が問う。
「切れんのか」
蒼真は、答えない。
まだ。
断言できない。
だが——
「……触れられる」
それだけは、確信する。
無月の姿が、ぶれる。
消える。
今回は、違う。
完全には消えない。
“遅れている”。
「……追えるか?」
嵐が低く言う。
蒼真は、目を細める。
糸。
伸びている。
繋がっている。
「……まだだ」
小さく、呟く。
「足りない」
何がかは——
まだ、わからない。
だが確実に。
“あと一歩”。
そのまま。
気配が、遠ざかる。
無月は、消えた。
静寂。
戻る。
もう、同じではない。
嵐が、息を吐く。
「……なんだよそれ」
蒼真は、答えない。
ただ——
刀を、見ている。
そして。
わずかに。
“糸”が、
まだ残っている。
その先へ。
繋がっている。
「……まだある」
小さく、呟く。
それは——
ここでは終わらない。
繋がっている。
どこかへ。
もっと、奥へ。
第十六話 終
見えてきたのは、
“本体”ではなく“繋がり”でした。
次話では、
その先に踏み込みます。




