表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

第6話 スタジオソード(株) 配信事務所



ダンジョンから出てきたときには19時を回っていた。ダンジョン・ホールには人がごった返していた。仕事終わりの探索者たちが続々と集う時間帯。


とはいえ不思議なことに、俺達が潜っていたダンジョンのロビー近辺がめちゃくちゃ混んでいた。そしてみんなスマホを見ている。不気味な光景だ。



「少年。門限は何時だい?」


「えっ?……大体21時までに帰ってれば何とも言われないです。ダンジョン探索で成果出てるの、両親も知ってるんで」


「そうか。では、わたしに付き合ってもらおう」


「えッ!?」



心臓が飛び跳ねた衝撃で、考え事が全部マジカル☆粉砕した。

更に言うとどうして自分がショックを受けているのかさえ分からなくなった。あの謎の空間で謎のモンスターと対峙したとき以上に心臓が鳴っている。


言葉が出てこないし、身体の動き全部にラグがかかったような感じ。



「なに、取って食ったりはしない。事務所が近くにあるんだよ」


「あ、ああ~~…………ああ~~~~」



お姉さんに手を掴まれ、ダンジョン・ホールの出口に向かって人混みの中をかき分けていった。



………………

…………

……



地下鉄で1駅。街の中心街に出る。表通りは人で溢れかえっていた。


信号待ち。夜なのに明るい街。

大型ビジョンには人気のvtuberグループ『おとめ座シューリンスター』が映っている。誰もそっちを見ていない。手元のスマホで『おとめ座シューリンスター』の配信を見ていた。



「少年。あの大きなモニターがあるビルには近寄らないように」


「はい。ん? えっ……?」



お姉さんは交差点を曲がり、人気のない裏通りを進んでいく。野良猫がいた。


少し進んで占い、と怪しいネオンサインが光る建物。怪しい。ピンク色の目のマークが描かれたネオンサインがでかでかと飾られている。その看板がなければただのタイル張りのマンションのような見た目なのだが……。


――ここの近くだろうか。こういう派手な建物は目印になっていいかもね。そう思っていた。



「ここだよ」



あろうことか、お姉さんはその建物に吸い込まれていく。



「うっそだ~~…………」



マンションの部屋を2つ改装した痕が見られる。小さな事務所のようだった。


『スタジオソード(株)』


今になって怖くなってきた俺だったが、派手な外観とは裏腹に、そのオフィスはシックな印象のものだった。広さは学校の教室くらい。リビングのようにくつろげるスペースと、デスクが2つ。

奥っかわのデスクに、メガネの女性が座っていた。多分、お姉さんと同じくらいの年齢だろう。俺より一回り上っていう感じだ。そんな彼女は赤い派手な髪色で、パソコンの画面を睨みつけている。俺達が入ってきたことに気付いてもいないようだった。



「少年、あの人がここの社長だよ」


「はじめまして。慈姑(くわい) 編人(あむと)です」


「…………そうだな、まずはウチの雪立(ゆきだて)がアポ無しで訪問したことを謝ろう。本当に申し訳なかった」



社長は画面から目を離さず、眉間にしわを寄せたまま俺に謝ってくる。



「あ、ええと……」


「今、騒動の広がりを見ていたところだ」


「騒動、ですか?」


「セツナ、茶でも淹れてお待ちいただけ。3分でまとめる」



無愛想でぶっきらぼう。それでも彼女の手物との動きから仕事ができそうな人だと察した。

お姉さんは、はいはい、と気のない返事をして俺をソファに座らせる。まもなく彼女はコーヒーを2杯持ってきた。



「砂糖、入れるかい?」


「ありがとうございます。大丈夫です」


「それは良かった。残りが少なかったんでね」



お姉さんはスティックシュガーを5本くらいまとめてビリっと破り、コーヒーにぶち込んだ。氷山のように積もったのもつかの間、ぶくぶくと泡を立てて沈んでいく。

俺はなんとなしにそれを眺めていた。授業で見た地球温暖化のビデオを思い出した。北極の氷山に思いを馳せる。



「…………」


「……眠いのかい? ここで寝たら親御さんに心配がかかる。さ、飲みたまえ」



温かいから余計に眠くなる。

今日はいろんなことがありすぎた。



「悪いが、最後にこれだけ見てから寝てくれ。帰りは俺が送る」



社長がタブレットを持ってきた。ぼんやりした外界に、『アミコちゃん』の文字が書かれているのが見えた。

一気に目が覚める。ネットのスレッドだ。ダンジョン配信板の様子。




………………

…………

……





『【マジッコ】アミコミアンの集い Part233【アミコ】』



45:アミコ地検特捜部

アミコちゃん登場

h††ps://www.dungoplus.tv/studiosword



47:銀助

>>45

vsアイド・オークか。てかこれソロかよ?

配信してるやつがピンチになったってことか?



53:名無し探索者

>>47

俺途中から見てたんだけど、ちょっと違う。カメラ握ってるのが女の人で、ついさっきまでLIGのアムトがアイド・オークと戦闘してた


そして気がついたときにはアミコちゃんvsアイド・オークになってた


何を言ってるのかわからねーと思うが(ry



54:名無し探索者

!?



55:auuuuuuuuu

!?は



56:名無し探索者

!?!?!?!?



57:名無し探索者

ここどこ



64:名無し探索者

>>57

見てた感じタテウラだったけど、新ダンジョンかも



66:銀助

いや、タテウラで間違いないな。地形改変が起きた。

これまでの探索が不十分だったか、タテウラに変化が起きてダンジョンが広がったかの二択だ。



77:auuuuuuuuu

とりあえずスレ立てた。ダンジョンのことはそっちでやってくれ


『アミコちゃん配信のダンジョンの件について』

h††ps://boards.3chan.org/dg/1753839185



78:名無しのアミコミアン

あみこちゃあああああああああん

おれだああああああけっっっっっっこんしてクレーーーーー



80:名無し探索者

アミコちゃん映んなくなっちゃったけど



81:名無し探索者

映像戻った



82:黄金のブロンズ

アミコちゃん汗かいてる。prpr



………………

…………

……




「これって――」


「ここが震源地となって、SNSでもタテウラの話題が広がっている。現在トレンド4位だな。1~3位はおとめ座関連の話題だ。おいセツナ。俺のコーヒーは」


「ご自分でどうぞ」



社長と目があった。フェミニンな感じのお姉さんとは違い、社長はカジュアルなデニムシャツで、わしゃわしゃなロングヘアをシュシュで大雑把にまとめている。『俺』という一人称も相まって、男っぽいような……でも出てるとこ出てるし。オパーイがイパーイ。



典原(のりはら)だ。典原(のりはら)テレサ」


「あ、僕は慈姑(くわい) 編人(あむと)です」


「さっき聞いた。君がアミコちゃんというのは本当か」


「あ……ええと…………はい。お恥ずかしながら」


「ありのままでいられないのは大変だな。ドゥルーズが分人(ぶんじん)と言っていたが……君の答えは君自身が見つけると良い」


「少年。この人の言葉は全部ひとりごとだと思って聞くのがちょうどいい」



また眠くなってきた。



「何なんだこの事務所……」


「愚者と最強と魔法少女の集いだ。世界を救うための」


「少年。この人の言葉をひとりごとだと思うと退屈な講義を受けているみたいで眠くなるだろう。予言者の言葉だと思って聞いたほうがよかったかもしれない」



――時すでに遅し。お姉さんが何を言っているのかも分からなかった。



すやぁ……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ