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第4話 華麗なる変身



その後も俺は懐かしいモンスターを蹴散らしながらダンジョンを進んだ。特に面白みもないので全カットだ。

配信は配信なので垂れ流しになってしまったが。


広々とした最下層に、俺達2人とボスモンスター1頭と虫のようにひっくりかえったドローンが1機。

複数パーティで殴りやすいのが初心者向けダンジョンの所以だった。



「さて。あとはあのアイド・オークを倒すだけ」



久しぶりのソロ攻略は物足りなかった。ダンジョン攻略は協力ゲームに近い。

だが、今の俺には協力する相手なんていない。



「さあ。ちゃちゃっと倒しちゃってくれたまえよ」



言われなくても。


バスを起こしたくらいの大きさのオーク。本来なら豚か猪のような顔をしているモンスターだが、昆虫の複眼ように増殖した無数の目玉が俺を捉える。


緊張? そんなのとっくの昔になくなった。

烈斗一斗豪(レット・イット・ゴー)の配信で同接10万人を達成したときから、俺は人の目がさほど怖くなくなった。



「ほら、こいよ。ギョロ目っち。久しぶりに踊ってみようぜ。目ぇ回すなよ?」



アイド・オークは手にした棍棒を俺に振り下ろしてくる。重い重い棍棒。喰らえばひとたまりもない。

俺は臆せず突っ込む。ヤツのふところまで一直線だ。



「な、少年! 正気か!?」


「スキルがなくても、知識があればこんなの――ッ!!」



ヤツは動きが遅い。かといって先手を打つと、その驚異的な先読み能力によって攻撃を防がれる。


剣道に、〝()(せん)〟という考え方がある。平た~~く言えばカウンターのことだ。

ヤツに先手を防がれるのは情報処理能力が優れているから。身体能力自体は高くない。ならば、身体能力で勝負をかけるべきだ。



案の定、アイド・オークは俺の動きに対応できなかった。棍棒が重すぎて、思うように動かせないのだ。そこで、オークは左手で俺に殴りかかってくる。


それを向かって左方向――やつの左手とは反対の方向に避ける。全力で飛んだ。

そのまま背中側に回り込む。


よく見ると、お姉さんも一緒に外周を走っている。なんだかんだ根性のあるマネージャーだと思う。



オークは棍棒を放し、右手を俺のいる方へ振り払った。



「まずい! 少年!!!!」



お姉さんが声を張り上げてこちらへ突っ込んできた。



「うぇっ!? ちょま!!!!」



直感する――このままじゃお姉さんは左手の追撃を食らってしまう。



なにが彼女を突き動かしたのかはすぐにわかった。ドローンだ。

今にもドローンがオークに潰されようとしている。




俺は問題ない。右手の振り払いを避けきったから。



しょうがない。





バレるのは嫌だが……


…………お姉さんがひどい目に遭うのはそれ以上に気に食わない。




いっちょ…………やってやりますか!!





「《変身》!!!!」





あたりに光が漏れる。いや、俺自身が発光しているのだ。


俺を凝視していたオークの目潰しにもなるだろう。




纏っていた学生服が光の粒子となって、スカートに、フリルに、リボンに形を変える。




一瞬にも満たない、刹那の出来事。




まぁ、客観的に見たら色んな感想があるだろうけど、自分自身の変身なもので、私の身体といえば発光していることくらいしか自分で確認できない。




背中のステッキを手に取り、今日もひとり、人を救う。







間一髪のところでお姉さんとオークの間に飛び込んだ私は、ステッキを剣に、オークの拳に向かって突き立てる。



下から上へ斬り上げた。それだけでは足りない。剣を斧に。

上から下に振り下ろす。まだまだ。斧を大鎌に。



「この腕は何人の人間を葬ってきた? どれほどの罪が刻まれている? 私のステッキで傷をつけてやる」



何度も何度も斬撃を加えていった。

腕を引っ込めようとするオークだったが、私が腕を掴んでさらに引っ張った。


轟音の叫びをあげるオーク。あたり一面に血の海を切り拓いても、ヤツは意識を保っている。



「マジカル☆裁断!」



仕上げにハサミで左手を根本から切り落とした。A級なんて、アムトの姿で挑むC級よりもザコい。



オークは私から距離を置こうとした。


その間に、お姉さんのほうを見る。彼女はドローンを目の前にして固まっていた。

少女のように目を輝かせながら、呆然とこちらを見ている。



私はハンディカメラを構えるジェスチャーをした。すると彼女は我を取り戻して、私の虐殺劇をレンズに映し始める。



一瞬だけ、お姉さんが、IDカードに映っていた昔の彼女に戻っていたような気がした。



まぁ、お姉さんはダウナーでいてくれたほうが話しやすそうだが。





私はオークに向き直り、ステッキに最後の変身を命じる。




「あんたの棍棒、私ならもっと上手く扱えたのに」




ステッキはヤツの棍棒をトレースする。私の何倍も大きな棍棒。どれくらいの重さがあるだろうか。

全力で地面を蹴って、棍棒ごとジャンプする。


空中で身体を反転させると、ちょうど竪穴のダンジョンの天井に足がつくくらいだった。


これくらいなら、20tとかそのくらいだろう。




天井を、蹴る。

愛しい地球に、音速のダイブを。





「マジカル…………メテオォォォォ!!!!!!!」





例えば地球に隕石が降ってきたとして、落下地点にはクレーターができるだろう。


オールドスクールのダンジョンには地形改変の概念がない。空間が固定されてるとかなんとか。


いつものマジカル☆メテオでは、そのぶん衝突の威力は逃げ場を失い、超常的なエネルギーを魔力として生じさせるのだが……。




今日ばかりは様子が違った。




「手応えが……」




ダンジョンの床が崩落した。最下層から、また広大な竪穴が広がる。





「ウッッッッッッッッそ!?!?!?!?!?」





私達はオークの肉塊もろとも深淵へ。


底しれずの奈落へと転落していった。


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