第1話 こうして始まった
「えっ!? 追放? 俺が?」
「ああそうだ、アムト。お前はこのパーティを抜けてもらうぜ」
「突然で悪いがな」
「決まったことなんだ」
いつも通り学校の部室に来た俺に、信じられない言葉が浴びせられる。
計4人パーティの俺以外……小中高と共に過ごしてきた3人の親友が、よそよそしい態度で俺を突き放した。
「追放って! どうしていきなりそんな!?」
「決まってるだろ…………そんなの」
3人はおもむろに俯いた。彼らは拳をぎゅっと握る。何か、俺のほうにも心の底に根ざした激烈な感情が伝わってきた。
そこまで彼らに迷惑をかけてしまったのか。無理を強いてしまっていたのか。
咄嗟に言葉が溢れ出してきた。
「みんな、ごめ――」
「――アミコちゃんに加入してもらいたいからだよ!!!!」
「は?」
3人が顔を上げると、頭にはピンクのハチマキが。『アミコちゃん♡』と文字が入っている。♡ってなんだよ♡って。そして上着を脱ぎ捨てると、下に着ていた法被があらわに。
それどころじゃない。ペンライト、ペンライト、ペンライト、ペンライト。片手に4本のペンライトを、それを腕2つ、それを3人。
計24本のペンライトが俺の視界を真っ白に染め上げる。光の暴力だ。
「うおっまぶし――」
「アミコちゃんにパーティに入ってもらうために、アムト、貴様をこのパーティから追放するうううううううう!!!!!!!!」
「ぐああああああ!!!!」
オタ芸が生み出す風圧のあまりの強さに、俺は部室の壁に背中を打ち付けた。
俺たち『烈斗一斗豪』で手に入れた金の盾が倒れる。チャンネル登録者100万人の証が。
――彼らが連呼する『アミコちゃん』とは、ダンジョンの魔物をやっつけてくれる魔法少女だ。俺らのパーティがピンチになったときにも必ず駆けつけてくれる。
以下は先日、配信サイトのハイライトにも乗ったアーカイブである。
その配信は、遺跡型ダンジョンを探索中の人気男女カップルのもの。
それまでの攻略は順調だったが、突如として奥の壁が崩れて、画角に収まりきらないほどの大きさの恐竜が姿を見せた。
「大変だ! ドSSS級のスーパーブラキオスが現れた!」
「私達じゃ敵わないよ!」
配信のコメント欄も不安の声でいっぱいになった。
『逃げて超逃げて!』
『ブラキオ=サン!? ナンデ!? ブラキオ=サンナンデ!?』
『リア充は南無れ!』
そんな折、どこからともなくダンジョン内に声が響き渡る。
「アミコに任せて!!」
映像に現れたのは、ピンクのおさげ三つ編みと、星の髪飾りが特徴的な女の子。
『キタ━(゜∀゜)━!』
『カメラさん!下!下!』
『勝ったな風呂入ってくる』
身長の2倍もあるクソデカハンマーを手に、スーパーブラキオスにひとっ飛び!
黄色と紫のグラデーションがかかった瞳の中の☆がキラりと光って炸裂、マジカル粉砕! きゃるんっ☆
「くらえ〜っ!」
ドーーーーン!!
その衝撃でダンジョン全体で震度5弱の揺れが観測されたのは後の話である。
「一撃でスーパーブラキオスがぺちゃんこに!」
「ありがとう! アミコちゃん!」
探索者カップルは両手を握ってアミコちゃんに感謝の祈りを捧げた。対するアミコちゃんはカメラに向かって勝利のVサインを示す。
「マジカルレスキュー完了! 困った時はいつでも呼んで!」
彼女は最後の決めゼリフを放つと、急いで走り去った。
熱心なファンの研究によると、彼女が3分以上配信に映ったことはいまだないらしい。
『完全無敵! 悪を改心! 平和をかわいく!!
それが、魔法少女 マジッコ・アミコ!!』
『土曜日 朝8時30分から放送開始!』
――というような、彼らにとって、いわば命の恩人でありながら、同時に推しの対象でもあるのがアミコちゃんなのだ。
「冗談よせよ。そういうドッキリは寒いだけだって、ついこの前話したばっかじゃんか」
「俺達は大マジだ!」
「ドッキリなんかじゃない!」
「アミコちゃんに全てを捧げると誓ったんだ!!」
またヲタ芸をしようとしたので慌てて止めに入る。
「わかった! わかった。でも……それならアミコちゃんを誘ってから俺を抜けさせればいいじゃんか。パーティの上限が4人だから誰か抜けてもらうのはわかるけど」
「アミコちゃんは俺たちがいつも4人でいるとこ見てるだろおおお!! お前が先に抜けてくれなきゃアミコちゃんはこっちを振り向いてくれないんだよッ!!」
「男は出ていけえ!」
「むさ苦しいんだよ!」
「お前らだって男だろ! いいか、俺は抜けてやんねえからな! 何か言ってみやがれってんだ!」
「なぁアムト…………お前は昔っからダンジョン探索が上手かったし、何より友達だからここに置いといてやったが、戦闘になると毎回トイレに篭もるのはどうかと思うぜ俺は!!」
「どうかしてるぜ!」
「ヒーハー!」
「アー……そのこと? えと、それはさ…………」
事情はあるのだが、事情が事情だから言い出せない。〝それ〟を言ったら、追放はナシになるかもしれないが、これまでの友情が崩れてしまう気さえする。
「何も言えないんじゃねえか! さあ、出てった出てった!!」
「風邪ひくなよ!」
「歯ァ磨けよ!」
言い淀んだが終わり。
問答無用でポーンと部室の外まで蹴飛ばされた。勢いよく閉められた扉の向こうからアミコちゃん!アミコちゃん!と声が漏れてくる。
「いててて。まったく……アイツら何のつもりだよ…………」
ドアを開けようとしたが、内側から鍵がかけられていた。俺は締め出されていたのだ。
「おい! 開けろよ! おい!!」
ドアを叩いてみても反応はない。思わず力が抜ける。扉の前で座り込んでしまった。
彼らのやってることはむちゃくちゃだ。
むちゃくちゃすぎて、絶対の秘密だった〝それ〟を口に出したくなった。
「――――アミコちゃんの正体は俺なのに」
誰にも聞かれていないと思っていた。
背後から女の人の声がするまでは。
「ふぅン? 興味深い。少年、君がアミコちゃんだと言うのかい?」
思えば、これが全ての始まりだった。扉の向こうで〝それ〟を言えていたなら。〝それ〟を彼女に聞かれていなかったら。
部室棟の廊下。夜が人の形に顕現したかのように暗い――紫髪のダウナーなお姉さんが、妖しく微笑みかけてきた。
はじめまして。お読みいただいてありがとうざいます!!!!
ヤニスウ・クセアリスと申します。喫煙癖はありません。
現実逃避で創作をはじめてみました。
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