第7話:歪められる運命
未来の兵器と不穏な影
第7艦隊の出現と、それが「未来からの来訪者」であるという衝撃の事実は、日米双方に大きな波紋を広げていました。ワシントンD.C.と東京では、連日、この未曾有の事態への対応を巡る激論が交わされていました。
「彼らの技術は、我々の常識を遥かに超えている。これを制御できなければ、我々自身が破滅しかねない。」
キンメル提督は、第7艦隊から提供された未来の技術の断片的な情報と、彼らの艦隊の圧倒的な性能報告に頭を抱えていました。一方、日本の大本営でも、山本五十六は核兵器の存在に戦慄し、その情報がもたらす未来の悲劇を回避する方法を模索していました。
日米間の秘密同盟は、この共通の「未知の存在」(第7艦隊)に対する警戒と、彼らの技術への欲求という、複雑な思惑の中でかろうじて保たれていました。しかし、その根底には、両国の深い不信感が依然として横たわっていました。特に、第7艦隊が「歴史への干渉は望まない」としながらも、自らの存在自体が歴史を大きく歪めている現実は、日米双方の首脳にとって、疑念の種となっていました。
第7艦隊内部の亀裂
一方、第7艦隊内部では、未来人であることを明かしたことで、状況はさらに複雑になっていました。補給は始まったものの、食料や部品の不足は根本的には解決されていません。乗員たちの間には、現代への帰還が絶望的であるという諦めと、この時代の資源を積極的に利用すべきだという焦りが渦巻いていました。
「提督、我々が未来人だと明かした以上、彼らは我々を利用しようとするでしょう。我々も、生き残るためには、彼らの持つ資源と、この時代にまだ存在しない技術の交換を提案すべきです。」
強硬派の士官がマクドナルド提督に進言しました。彼らは、自らが持つ未来の技術こそが、この時代を生き抜くための最大の武器だと考えていました。しかし、提督は依然として慎重でした。
「それは、さらなる歴史への干渉だ。我々の存在が、この時代の技術進歩を過剰に加速させれば、未来は予測不能なものとなる。我々の唯一の使命は、帰還の道を探し、歴史の大きな流れを破壊しないことだ。」
提督の揺るぎない方針は、一部の乗員には「非現実的」と映り、内部の対立は深刻化していました。艦隊の統一は危機に瀕しており、その不協和音は、日米の監視網にも微かに感知され始めていました。
未来の戦争シミュレーション
日米は、第7艦隊から提供された限定的な情報に基づき、彼らの技術力を分析し、その脅威を把握しようと試みました。特に興味を示したのは、日本の山本五十六でした。彼は、第7艦隊から受け取った「第二次世界大戦の概略」という情報に目を凝らしました。そこには、自らが立案した真珠湾攻撃、その後のミッドウェー海戦での敗北、そして最終的な日本の敗戦と広島、長崎への原爆投下という、恐ろしい未来が記されていました。
「ミッドウェー…まさか、我々が敗れるというのか…」
山本は、その情報が正確であれば、自らの戦略が根本的に誤っていることに気づかされます。彼は、第7艦隊の技術に警戒しつつも、彼らが提供する情報が、日本の未来を変える鍵となるかもしれないというかすかな希望を抱き始めました。
日米は、第7艦隊の技術力を分析する中で、あるシミュレーションに着手しました。それは、第7艦隊から得た情報と、彼らの持つ未来のコンピューター技術の一部(第7艦隊が提供した解析装置など)を利用して行われました。このシミュレーションは、もし第7艦隊が敵として全力で攻撃してきた場合、当時の日米両国がどれほどの損害を被るのかを試算するものでした。
結果は、日米双方にとって絶望的なものでした。第7艦隊の圧倒的な火力、速度、そして電子戦能力は、当時の戦術や兵器では対抗不能であり、わずか数時間で日米の全戦力が壊滅するという結論が出たのです。
このシミュレーション結果は、日米の首脳部に決定的な恐怖を植え付けました。彼らが「敵ではない」と主張しているとはいえ、その力の差は圧倒的であり、彼らを完全に制御できなければ、未来は彼らの意図一つで変わってしまうという現実を突きつけられたのです。
予期せぬ交信
その頃、第7艦隊のCICでは、新たな異変が感知されていました。それは、地球上のどこかから発信される、極めて微弱な、しかし明確な未来の信号でした。
「司令!微弱ですが、我々の周波数帯で信号を検知!これは…2024年の信号です!」
マクドナルド提督は、その報告に顔色を変えました。絶望的だと思われていた現代世界とのコンタクト。それが、可能性として現れたのです。しかし、その信号は非常に不安定で、断続的でした。
「すぐに解析を試みろ!発信源を特定しろ!これが…未来へ帰る道かもしれない!」
その信号は、地球上のどこかの、2024年を生きる何者かからの「呼びかけ」でした。しかし、その呼びかけは、第7艦隊が現在置かれている状況を、さらに複雑で、予期せぬ方向へと導くことになることを、マクドナルド提督はまだ知る由もありませんでした。