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第2話:歪む歴史の波紋

日本の困惑と秘密工作

南雲機動部隊からの報告は、大本営に激震をもたらしました。真珠湾攻撃は遂行されず、攻撃隊が「未来の兵器」のような「未知の敵」によって壊滅させられたという事実は、彼らの常識を完全に打ち砕いたのです。


「一体、あれは何なのだ…?アメリカの新兵器か?いや、それでは説明がつかん…」


大本営の重鎮たちは、信じがたい報告に頭を抱えました。しかし、昭和天皇からの「未知の敵」との共同戦線要請という異例の勅命が下されたことで、日本は急速な方針転換を余儀なくされます。これまでの対米開戦準備は一時中断され、日米間の秘密交渉が水面下で開始されました。


日本側は、大本営陸軍部作戦課長の辻政信中佐を、アメリカとの秘密交渉団の代表に任命しました。辻は、その独断専行と強引さで知られる人物でしたが、同時に類まれな行動力と交渉術を持っていました。彼に与えられた使命は、アメリカとの間で「未知の敵」に対する共同戦線を構築し、日本の存亡の危機を乗り越えることでした。


その交渉の裏で、東條英機首相と山本五十六連合艦隊司令長官は、刻々と入る報告に目を凝らし、国家の命運をかけた決断を下すべく連携していました。特に山本は、自らの真珠湾攻撃計画がこのような形で頓挫し、しかも未来からの存在によって引き起こされたことに、深い衝撃と屈辱を味わっていました。しかし、彼は現実を冷静に受け止め、この「未知の敵」への対処こそが、日本が生き残る唯一の道だと悟っていました。


第7艦隊の苦悩と使命

一方、ハワイ沖を離脱した第7艦隊の内部は、情報が錯綜していました。艦内では、真珠湾攻撃を阻止したことへの安堵と、未来を変えてしまったことへの不安が入り混じった空気が流れていました。


「提督、本当にこれで良かったのでしょうか?我々は歴史に干渉しないはずでは…」


マクドナルド提督は、艦長たちの問いに重い沈黙で応えました。彼は、日本の航空隊を壊滅させたことで真珠湾の悲劇を防いだという事実はあるものの、それが未来にどのような影響を及ぼすか、全く予想できませんでした。彼らは、過去に囚われてしまった「未来人」として、自分たちの存在そのものが歴史の歪みとなる可能性に怯えていました。


「私は…歴史に干渉しないと誓いながら、日本の攻撃を受けたことで、皮肉にも真珠湾の悲劇を阻止してしまった。 この決断が正しかったのかは、未来だけが知っているだろう。」


彼の脳裏には、過去の歴史書で読んだ、炎上する戦艦アリゾナの姿が鮮明に焼き付いていました。彼らは、この時空の「部外者」でありながら、意図せずして「介入者」となってしまったのです。


彼らは、依然として2024年の世界との通信手段を失っていました。もはや現代への帰還は不可能かもしれないという絶望感に苛まれながらも、彼らは自分たちの生存と、この未知の状況での「使命」を見定めようと必死でした。


「まずは、この時代の情報を集めろ。そして、我々が未来から来たことを悟られないように、最大限の注意を払え。我々の技術がこの時代にもたらす影響は計り知れない。下手に動けば、取り返しのつかない事態を招く。」


マクドナルド提督は、自らの知識がこの時代では恐るべき兵器となり得ることを理解していました。彼らは、技術的な優位性を保ちつつも、極力目立たぬよう、この時代の情報収集と分析に徹することを選びました。


動き出す日米同盟と監視網

ワシントンD.C.では、日本の特命大使団とアメリカ政府高官による極秘会談が始まりました。当初、アメリカ側は日本の提案に強い不信感を抱いていました。


「真珠湾攻撃を企てた貴国が、今になって『未知の敵』だと?信用できるはずがない!」


しかし、日本の大使団が提示した南雲機動部隊からの詳細な報告、そしてPBYカタリナ偵察機のパイロットが目撃した「異形の艦隊」の証言が、アメリカ側の疑念を少しずつ覆していきました。特に、日本の航空隊が一方的に壊滅させられたという事実は、彼らがこれまで経験したことのない脅威の存在を示唆していました。


「大統領、日本の報告は、我々の偵察機が目撃した『未知の存在』と一致します。この脅威は、日米の対立を超越する可能性があります。」


フランクリン・ルーズベルト大統領は、熟考の末、日本の提案を受け入れました。そして、日米間に「未知の敵」に対抗するための秘密同盟が結ばれることになったのです。これは、世界史において前例のない、驚くべき転換点でした。


しかし、同盟が結ばれたとはいえ、日米間の相互不信が完全に消え去ったわけではありませんでした。特にアメリカ側は、「未知の敵」とされる第7艦隊の正体、そしてその真の目的を探るため、厳重な監視網を敷きました。彼らは、第7艦隊が日本の報告通り「地球外の存在」なのか、あるいは「何らかの意図を持った第三国の兵器」なのかを見極める必要がありました。


最初の接触:不可視の探り合い

真珠湾から遠く離れた太平洋上で、第7艦隊は情報収集と身を潜めることに集中していました。しかし、その彼らの上空には、既にアメリカ海軍のPBYカタリナ飛行艇や、真珠湾に配備されていたP-40戦闘機が、見えない位置から継続的に偵察飛行を行っていました。


「司令、頭上を偵察機らしき影が通過しました。距離と高度から判断すると、PBYカタリナと思われます。やはり、我々は完全に監視下に置かれているようです。」


第7艦隊のCICでは、最新鋭のレーダーとセンサーが、目視では捉えられない遥か上空を飛行するPBYカタリナの存在を正確に捉えていました。彼らは、自分たちの存在がこの時代の兵器では捉えきれないことを知っていましたが、同時に、それが不必要な警戒と誤解を招くことを懸念していました。


「向こうはこちらを完全に把握できていないだろう。接触は避ける。彼らの技術では、我々の存在を正確に探知することは不可能だ。だが、それでも我々を『未知の脅威』として捉えていることに変わりはない。」


マクドナルド提督は、見えない相手との間に緊張感が走るのを感じていました。彼らは、未来の技術を持つがゆえに、過去の人々にとっては理解不能な存在であり、それが故に敵視されていることを痛感していました。


日米が同盟を結び、共通の敵とみなされた第7艦隊。歴史の歯車は、誰も予想しなかった方向へと、しかし着実に回り始めていました。彼らは、この歪んだ歴史の中で、いかに生き、いかに未来へと繋がる道を見つけるのか。その答えは、まだ見えません。

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