第二章 『再会の場所』
目を覚ました瞬間、世界は真っ白だった。
風の音も、水の流れも、誰かの声もない。でも不思議と、怖くはなかった。むしろ、ほっとしていた。
――やっと、あなたに会える。そのことだけが、胸の中を静かに灯していた。私はゆっくりと立ち上がり、白くにじむ地平線の向こうを見つめた。
そこに、いた。
あなたは、ほんとうにそこにいた。
懐かしい背中。見間違えるはずがない。あの肩の丸みも、髪の揺れ方も、全部、記憶のとおり。私は、名前を呼んだ。声にはならなかった。でも、あなたならきっとわかってくれる。そう思って、私は手を伸ばした。
……その時だった。 あなたの隣に、誰かがいた。白いワンピースの、見知らぬ女の人。彼女はあなたの腕を優しく掴み、あなたはその手を、迷いもなく握り返した。
笑ってた。あなたは、あんなにやさしい顔で、誰かと笑っていた。それが、私じゃなかっただけ。
ふたりは歩き去っていった。私のことなんて、まるで見えないかのように。いや――たぶん、本当に見えてなかった。まるで、私はここにいないみたいだった。
ああ、そうか。
あなたはもう、私を忘れてしまったんだね。
第二章後半・『見えないものになってしまった』
私はずっと、あなたに会うためだけに、生きてきたのに。いや、生きるのをやめてまで、会いたかったのに。それなのに、あなたはもう、私のことなんて、ひとつも覚えていなかった。あの目は、知らない人を見るような目だった。あの笑顔は、私じゃない誰かのために向けられていた。私は、あなたのために死んだのに。痛かったけど、怖かったけど、あなたが待っててくれると信じたから、飛び降りる瞬間、ほんの少しだけ救われた気がしたんだよ。“これで、もう一度会える”って。でも、私はもう、ここにすらいられない。あなたのとなりにいたあの子は、とてもきれいで、私なんかよりずっと、あなたに似合ってた。
ねえ、なんでそんなに、簡単に忘れられるの?あの時わたしが見ていた未来は、ただのひとりよがりだったの?この胸の中で、何度も何度も呼んでいたあなたの名前は、届いてすらいなかったんだね。指先が冷たい。声も出ない。涙も流れない。
この世界はきっと、もう私を“人間”として扱ってない。あなたに名前を呼ばれなかった私の魂は、誰の記憶にも残らないまま、音もなく消えていく。
――ねえ、神さま。もしも“奇跡”ってものがあるなら、ひとつだけ、お願いがあります。
せめて、もう一度だけ、あの時に戻って、彼の夢を笑わずに、ちゃんとそばにいられる私に、なりたいんです。