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第一章『わたしが飛んだ夜』

音のない世界で出会ったふたりは、

言葉よりも先に、心で話していた。


彼が夢を語るたび、私は少しだけ怖くなった。

その未来に、私がいない気がしたから。


「宇宙飛行士になりたいんだ」


あの日、笑ってしまった自分を

彼が消えてから、何度も責めた。


彼は星になった。

もう二度と届かない場所へ行ってしまった。


だから私は飛ぶ。

あの夜、名前を呼べなかった私が、

今度こそ、想いを届けるために。


――もしも、たったひとことで運命が変わるなら。


まだ、間に合いますか。

あなたがいなくなってから、世界はひどく、うるさくなった。

私は音が聴こえない。それなのに、教室のざわめきも、誰かの笑い声も、背中に鋭く突き刺さる。“聴こえない”ということが、あなたがいた頃には、ただの静けさだった。優しい沈黙だった。

でも今は違う。それは、ただの孤独の別名になった。あなたのいない世界で、私は壊れ方さえわからなくなっていった。あなたが残したものは、この胸の奥に沈んだ、名前のない痛みだけ。

手話で紡ぐ記憶も、笑い合った週末も、時の隙間に、静かに風化していく。

教室では、机の中にゴミを詰められた。廊下では、ぶつかっても謝られない。私は“無音”の中で、“無視”され続けた。言葉を知らないわけじゃない。ただ、届かないだけ。あなたがいた頃は、目と目が合えば、それだけで会話ができた。誰にも通じない想いも、あなたには伝えられた。

ねえ、覚えてる?「宇宙飛行士になりたいんだ」って、あなたがはにかみながら言った日のこと。私は、少しだけ笑ってしまった。本気に見えなかったからじゃない。その夢が、あまりにも遠くて、“わたしのいない未来”を連れてくるような気がして、怖かっただけだった。

本当は――あなたの夢を、いちばんそばで応援したかった。どんな星より、あなたが眩しかったから。

でも、もうその気持ちを伝える時間は、地上には残っていない。

だから、わたしは行くね。この胸にある、あなたの笑顔だけを持って。あの夜、呼べなかったあなたの名前を、今度こそ口のかたちにして、静かな空へ飛び込むの。


ねえ、待ってて。あなたのいる場所に、ようやくわたしも辿り着けるから。

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