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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ジーグとオズマ
9/91

◇ ラムド政府の闇

 ドノヴァンの顔つきが、いままでとはちがってくる。笑みが消え失せ、ピリピリした彼の憤りが伝わってくる。


「あいつだけは、絶対にゆるさない」


 そういう彼に、リナが尋ねた。


「なにがあったのですか?」


 問われたドノヴァンは、話しはじめる。


 ドノヴァン・オズマは、もともとラムド政府内の地域に住んでいた一般人だった。幼いころの彼は、自分にレイズの資質があるとは、まったく思っていなかった。

 弟と妹がいたが、兄弟三人とも子どもだったころに父親も母親も戦闘に巻き込まれ、両親が他界する。


 児童養護施設に入れられた彼ら兄弟だが、そこでも不幸にみまわれる。

 その施設はラムドの軍事施設に造り変えられることになり、彼らは追い出されてしまったのだ。


 それは、当時の大統領ダーモス・コーネンの命令だった。


 子どもたちを受け入れてくれるところはどこにもなく、彼らはあちこちを歩きまわり、ゴミ箱をあさって飢えをしのぐ日々を送っていた。


 シグマッハとの戦闘は激化している最中だった。すべてが軍優先で、役所も警察もこの兄弟を助けようとはしなかった。


 やがて妹が息絶え、あとを追うように弟も短い命をとじる。

 ある日、涙に暮れるドノヴァンの耳に、町を巡回する軍の兵隊たち三人の話し声がきこえてきた。


「大統領は、この国をレイズが使える人間の国にするらしいぞ」

「なに? それじゃあ、シグマッハと同じじゃないか」

「いや、レイズが使えない一般人は、レイズが使える俺たちのために働くことになるようだ」

「低級人種は、底辺で生きるということか?」

「そうだな」

「わははは、そりゃいいや」


 彼らの会話をきいたドノヴァンの心に、怒りの炎が燃え上がる。ドノヴァンのレイズが目覚めたのは、このときだった。




 彼はリナとレミーに、凍えるような冷たい目をして語った。


「そいつらを、骨ものこさず灰にしてやったよ」


 彼女たちは息を飲む。ラムドの部隊は彼のレイズの詳細について、まだ完全には把握できていない。

 強大な炎を使うということはわかっているが、レイズが発動するまでの時間や、レイズの能力がどの範囲まで及ぶのか見当もつかない。


 ドノヴァンも、それ以上は話そうとしなかった。


 はじめてレイズが開花した、あのとき──


 ズドドンッ!


 大きな地響きとともに、地面が揺れる。兵隊たちは、巨大な恐竜にふみ潰されたかのように地べたに埋もれ、彼らを中心に小さな隕石でも落ちたようなクレーターができる。


 これは、ドノヴァンのレイズだ。彼の備えるレイズは、ひとつではない。

 クレーターに歩み寄るドノヴァンは、三人の死体を見下ろしながら静かに声を響かせた。


「低級人種で悪かったな」


 彼の怒りは、まだおさまってはいない。


「大統領、ダーモス・コーネン……待っていろ、俺が必ず殺してやる!」


 三人の死体から炎が立ちのぼり、ギュルルルッと渦を巻きながら一瞬で骨まで灰にしたのだった。




 その後、レイズに目覚めたドノヴァンは、これからどうするかを考える。ダーモスを殺すにしても、彼がどこにいるのか、日々どういう行動をとるのかわからなければ、どうしようもない。


 また、事を起こすにもタイミングというものがある。やみくもに動いたところで、そこに目当ての人物がいなければ空振りに終わる。


 とにかく情報がほしい。それ以前に、住む場所や食料も確保できなければ、なにをするにもままならない。

 けっきょく、ドノヴァンはシグマッハに身をよせることにした。


 命令に従ってラムドの部隊を殲滅しながら、ダーモスに関する情報を探り出そうとしたが、なかなか上手くいかなかった。


 やがて、大統領がレズリー・マットに交代したという確かな情報が入り、それ以降ダーモスに関係するすべてが、ぱったりと途絶えてしまう。

 そして五年前、未知の伝染病に罹っていたとされるダーモスの死亡が伝えられたが、ドノヴァンは信じなかった。


 ダーモスの病気について、くわしいことはなにも発表されていないのだ。


 以前から変だと思っていたことが、大きな疑問にふくらんでゆく。大統領官邸で倒れたとされるダーモスが救命車で運ばれたとき、誰も寄せ付けないように、いきなり感染病棟に向かっている。


 官邸にいた警備員など他の人間は、検査こそ受けたものの、異常はなく健康であり、ダーモスだけが重症だった。


 どう考えても変だと思った。


 ──ヤツは生きている!


 ドノヴァンの恨みはまだ消えることなく、いまもくすぶり続けている。




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