◇ 知られざる真実
セシルは、自分が着ている服を見ると眉をひそめる。
「やっぱり、慣れないことはするものではないな。こんな格好は、わたしには全然、似合わない」
そう思っているのはセシルだけだ。
こうしてみると、セシルはなかなかの美人である。もし、セシルが軍人ではなく民間人であれば、彼女はかなり男たちからモテたことだろう。
「わたしの役目は、これで終わりだ。では、帰るとするか」
セシルは指令室を出ようとしたとき、ふと思い出したようにふり返った。
「ああ、そうだ。大統領の言葉を伝えておこう。『良い返事を待っている』」
ファルコたちみんなは一歩も動くことなく、指令室から出てゆくセシルを黙って見送るのだった。
セシルが指令室を出て行くと、ファルコは彼女から受け取った封書から手紙を取り出す。
封書の中には、セシルがいったとおりにメモリーチップが入っていた。
ファルコはそれを部下のサイアスに渡す。
「モニターに映せ」
「はっ」
ファルコはレズリー大統領の手紙に目を通す。それには、まず彼女がシグマッハを降伏させようとする意思はないことが書かれていた。
読んでいる途中で、サイアスが彼に声をかける。
「総隊長」
モニターに、チップのデータが出力される。
映し出された映像は、ある施設だ。上を向いているパラボラアンテナが、やたら大きい。
次の映像は、なんらかの機器が設置されている一室だ。その部屋は地下室である。
ファルコが口をひらいた。
「通信設備だ」
手紙を読んでいるファルコは、顔をひきつらせた。
「これは……本当なのか?」
モニターに映っているのは、ラーホルンの流民収容施設が建設される以前に、そこにあった建物だ。
星間通信中継局である。これは、惑星アーカスが星間協定を締結していた星々と通信するために造られたものだ。
手紙には、この地下になにがあったのかが説明されている。
それは、惑星パレラ専用の通信機器だった。
惑星パレラ──アーカスの戦争に兵器を提供した惑星である。
その兵器により、多くの人々が死に絶えた。一方、超能力が開花する者が発生するようになった。
以降、アーカスの戦争はイデオロギーのちがいによる戦争から、超能力のある者とない者との戦争に変わってゆく。
地下室にある星間通信設備は、その期間におけるアーカスの状況のデータを、惑星パレラに別のチャンネルで送るための専用の設備だったのだ。
その責任者は──
「ダーモス・コーネン……だと?」
当時のダーモスは議員ではなく、星間協定担当の役員であった。
つまり、惑星パレラが開発した兵器の効果を、ダーモスが秘密裏にパレラに送信していたということだ。
この通信記録は表には出ていないが、彼個人のパソコンにログがのこっていたのである。
要するに、惑星パレラは己の造った兵器がどういう効果をもたらすか、その実験台として惑星アーカスを利用したのだ。
そう、アーカス人は、パレラ側が開発した重化学兵器の人体実験に使われたのである。これに協力したのが、ダーモスなのだ。
ダーモスが大統領になると、星間通信中継局は別の場所に建て替えられた。
ラーホルンにある通信施設は即座に取り壊し、撤去する命令を出しているが、地下室における設備の処分や埋め立て作業は極秘に進められている。
現大統領のレズリーは、このことでシグマッハと話し合うことを望んでいるのだ。ラムドとシグマッハは敵どうしではないと、彼女は認識している。
ファルコはサイアスに指示する。
「幹部全員を作戦会議室に呼べ」
「はっ」
やっと、わかった。
──戦う相手は、別にいる




