◇ シグマッハの本拠地
最初の難関をどうにかくぐり抜け、ザストンの町に進入したミランダとセシルは、宿を探しながら会話する。
「上手くいって良かったな、隊長」
「うん。あそこを越えられるかどうかが、今回のミッションの大きな山場だったんだ」
シグマッハの本拠地があるエルジダンまでは、まだ距離がある。この町で一泊して翌朝に出発すれば、昼までには到着する予定だ。
ミランダが話を続ける。
「検問のあいつら、思ったより馬鹿じゃなかったな。シグマッハは、検問兵士として適格な人員を配置している」
「総隊長のウォーデスが、頭のキレる男だからな。兵士たちがエリーチェの名前を知っていたのは、こっちには都合が良かった」
それで上手くいったようなものだ。彼女たちにとっては、ラッキーだったといえる。
「隊長、エルジダンに入れば、もうわたしは助けられない」
「ああ、わかっている」
「大丈夫かい?」
「まあ、なんとかするよ」
「隊長以外では、無理だろうな。この任務は」
セシルにしても、自分には向いていない任務だと思っている。
戦うために行くわけではないので、武器は持ってきていない。本当に、なんとかするしかないのが現状である。
──冷静に話し合いができれば良いのだが
それが簡単にいくなら、こんな苦労はしないだろう。
──出たとこ勝負か……
相手を倒すことなく話し合いにもち込むという、過去に経験のないやっかいな任務だ。
二人が乗っている車はかなり目立つと思ったが、そうでもないようだ。町の人々は、被害を受けて帰ってくるシグマッハの車両を見慣れているらしい。
日が暮れて辺りが薄暗くなってきたとき、ミランダが声をあげる。
「あった、あそこだ」
事前に調べていた宿が見つかった。シグマッハの部隊とは関係のない小さな宿泊所である。
主に、工場関係者が泊まるときいている。
車を止めて、二人はその中に入った。
受付は、年配のおばあさんだ。彼女はセシルの服装を見て、目をぱちくりしている。
「そんな格好のお客さんは、めずらしいねえ」
ミランダが応ずる。
「ちょっと、わけありでね」
「兵隊さんが変装でもしているのかい?」
「ああ、兵隊の協力者なんだ。ラムドに行ってて、命からがら帰ってきたんだ」
「そりゃ大変だったねえ。ゆっくり休むといいよ」
彼女たちは、何事もなくこの宿で一夜を過ごすのだった。
翌朝、宿を出発したセシルとミランダは順調に車を走らせ、エルジダンの地区に入る。
そして、とうとうシグマッハの本拠地にたどり着いた。
三階建ての本部の入口に、二人の男が見張っている。警備兵だ。
車を運転するミランダが、パッシングの合図を送る。警備兵の前まで来ると車を止めて、彼女たちは車から降りた。
警備兵の男が、声をかけてくる。
「来たか。ブレゼオの仲間から、話はきいている」
別の男が、セシルに尋ねた。
「あんたがエリーチェか。確かに、こっちでは見られない美人だな」
エリーチェの存在が、これほど知れわたっているのは想定外だ。といっても、悪いことではない。
セシルは彼に問いかける。
「中に入っていいか? さっさと済ませたい」
「念のため、そのバッグを調べさせてくれるか」
「ああ、いいよ」
警備兵がセシルのバッグをチェックする。
「手紙だけだな」
「重要な手紙なんだ。ここまでもってくるのに、苦労したよ。着替える暇もなかった」
彼は、彼女たちが乗ってきた車を見ながらいった。
「大変だったな。入ってくれ」
セシルは本部の中に入る。
──よし
ドルトンからひき出した情報によると、ファルコのいる指令室は三階にあり、それがどの部屋かも把握している。
すれちがう兵士が驚いたような目でセシルを見るが、彼女は気にせず三階まで上がって行った。




