◇ まるで別人
しばらくして、レズリー大統領とセシルが会議室にもどってくる。
セシルを見たワイアードとボルグならびにアルオーズは、呆然となった。
「ファーマイン……だよな? いや、別人かと思ったんだ」
「これほど変わるとは、驚いたな」
「この姿で、彼女は特別機動部隊の隊長だと説明しても、誰も信じないでしょうな」
セシルは、軍服から華やかなスカート姿に着替えたのだ。白いブラウスに、膝を隠す青色のスカートがなかなかよく似合っている。
つばの広い黄色の帽子も、着ている服にマッチしている。赤いリボンがおしゃれだ。
大統領の側近であるコーディネーターたちにより、セシルは本当に別人のように変わったのだ。化粧のノリが抜群に良い。
軍や政府と関わりのない市民、というより「貴族」で通用しそうだ。
そんな彼女は、機嫌が悪そうな想いを隠そうとはせず、ムッとする。
「なんでわたしが、こんな格好を……」
ワイアードが真顔になる。
「それをいまから話そう。ファーマイン、よくきくんだ」
先日、シグマッハのドルトンという男を逮捕した。
ボルグに手伝ってもらい、彼のレイズであるマインドコントロールで、できるかぎりの情報をきき出そうと試みた。
その結果、ドルトンはシグマッハ情報部隊の兵隊であり、特別機動部隊のアストロチームに関するデータを手に入れようと動いていたらしい。
幹部のガラハッドが重症に陥ったことで、アストロチームはシグマッハにとって、想像以上のとてつもない脅威であると認識されたのである。
ボルグがドルトンからひき出した情報は、それだけではなかった。
ワイアードは言葉を続ける。
「思いもよらない話が出てきたよ。それが使えると、わたしたちは考えたんだ」
ドルトンには、ラムドに恋人がいたのだ。エリーチェという、レイズを使えない一般人だ。
彼女はシグマッハの組織と関わりがないが、ドルトンに協力している。
エリーチェはドルトンの素性を知っている。ドルトンにもしものことがあれば、彼女はシグマッハの本拠地にそのことを知らせるよう、ドルトンに頼まれているのだ。
ラムド軍は、すでに彼女の身柄を拘束している。
「ファーマイン。おまえがエリーチェに成り代わって、シグマッハの本部に行くんだ。だから、市民の服装でなければならないんだよ」
セシルは眉をよせる。
「わたしでなくても、アストロチームのマスター・ルゼに行かせればよいではないか」
「ダメだ。ルゼ隊員が行くと、ちょっとしたことで乱闘になりかねない。彼女は戦闘能力が高すぎる」
アストロチームのミランダ・ルゼだと、馬鹿な兵隊にからかわれて腕をとられそうになったりすると、それだけで身体が反射的に反応してしまうだろう。
無意識にトドメをさしてしまうと、とり返しがつかなくなる。
ボルグが口をひらいた。
「官房長官もいわれたが、戦いに行くわけではないんだ。大統領が望んでいるのは、シグマッハとの和平なんだからな」
ワイアードの言葉が、それに続く。
「シグマッハの中枢まで行って、やつらに話し合いができるようにもっていくんだ。そして、ぶじに帰ってくる。こんなことができるのは、おまえしかいないんだよ。ファーマイン」
セシルはしばらく沈黙するが、イヤそうな顔をして訴えた。
「拒否する」
「ダメだ」
「絶対にイヤだっ」
まるで、反抗期の女学生のようだ。
「ファーマイン、おまえはどうしてもやらなければならない」
「なぜだ!」
「大統領命令だからだ」
「………」
絶句して呆然となっているセシルに、大統領のレズリーが微笑ましい笑顔でトドメを刺す。
「ファーマイン隊長、やってくれますね?」
セシルは、首を縦にふるしかなかった。




