◇ 拒絶
シグマッハのファルコ・ウォーデス総隊長は、今日も厳しい顔つきだ。
これでも、己自身から漏れ出るレイズを抑えている方だ。
ラムドを壊滅する作戦が、なかなか思い浮かばない。これまで実施した計画がことごとく失敗に終わったのが、彼の思考を惑わせている。
アルオーズ官房長官の誘拐は上手くいったものの、特機隊の副隊長レミー・モルダンとの交換が、あんな形で潰れるとは思わなかった。
ラーホルンの流民収容施設の奇襲にしても、ドノヴァンがそこにいたのは、まったくの想定外だ。
極めつきは、ラパノス襲撃の際にこちらの手の内を読まれ、ガラハッドが瀕死の状態に陥ったことだ。
幸い彼の命に別状はなく、順調に回復してきてはいるが、予想外のことが多すぎる。不運といえば、それまでだが
──不運が続くにも、ほどがある
もう、これ以上の犠牲は出せない。
まちがっても、ガラハッドのように幹部が重症になるようなことがあってはならない。
しかし、そうかといっていつまでもおとなしくしていると、ラムドの方から逆に攻めてくる恐れがある。
向こうには、ジーグという切り札がある。いまのシグマッハの戦力では、彼女を抑えることは、とてもできそうにない。
ファルコが頭を悩ませていると、通信兵が彼に伝える。
「総隊長、ラムドからの通信です」
ファルコは眉をひそめる。
「なんといっている」
「話し合いがしたい、こちらの呼びかけに応じてほしい、と」
ファルコは、ギリッと歯ぎしりする。
「切れっ。われわれは、ラムドには絶対に屈しない!」
「は、はいっ」
通信兵は、あわててラムドからの通信を切った。
ファルコの顔が、怒りで赤くなる。
──降伏せよというのだろう。俺たち幹部を殺したあと、のこりの兵は一般人以下の生活をさせるつもりだろうが、そうはいかんぞっ
彼は、このように考えている。
だが実際は、まったくちがうのだった。
ユードルトにある特別機動部隊の基地に、統合本部の司令官ワイアードから通信が入る。
「ファーマインはいるか?」
セシルが応答すると、彼はいった。
「大統領官邸へ来るんだ」
「なにかあったのか?」
「おまえが必要になった」
大統領の数日にわたるシグマッハへの呼びかけは、上手くいかなかったらしい。
「わかった」
セシルは、ガイ・ユングの運転する特機隊の3号車両で、大統領官邸に急いだ。
大統領官邸では、レズリーのほかにアルオーズ官房長官、ボルグ情報局長官にワイアード・ロディオン統合本部司令官という、ラムドの重鎮たちが会議室でセシルを待っている。
セシルが到着して会議室の椅子に座ると、ワイアードが彼女に向かって口をひらいた。
「シグマッハは、大統領の声に、きく耳をもたない状態だ。それで、彼らの中枢にのり込むことを考えた」
組織の中心部を壊滅する、本格的な頂上決戦がはじまるのか。
そう思うセシルは、ワイアードに尋ねた。
「わが部隊のアストロチームをメインに、幹部たちを一掃するのか?」
「いや、ちがう」
彼の予想外の言葉に、セシルはいささかびっくりする。
アルオーズが、困ったものだという目で彼女を見る。
「シグマッハを攻撃するために行くのではないのだよ。大統領が望むのは、あくまでもシグマッハとの対話なのだ」
そうだとすると、セシルは自分が呼ばれた理由がわからない。
「わたしに、なにをしろと?」
大統領のレズリーが答える。
「わたしに提案があります」
驚いた。まさか、大統領が直々に解決案を出すとは思わなかった。そのレズリーは、妙にうれしそうな顔をする。
「いっしょに来てください」
セシルは大統領とともに会議室を出るのだった。




