◇ 隠された真実
セシルはボルグに確認する。
「その中継局を造ったのは、ダーモスということか?」
「そうだ」
「では、流民収容施設の、地下室の痕跡というのは……」
ボルグは首を縦にふる。
「うむ、ダーモスは中継局を建てる際に、独断で地下室を造ったのだ。それは、正式な資料には記されていない」
ワイアードが怪訝な想いを声に出した。
「あいつはいったい、なにを企んでいたんだ?」
ボルグはオルトナに顔を向ける。
「次の映像を」
「はい」
モニタースクリーンに映し出されたのは、いま話した地下室だ。
ボルグがみんなに伝える。
「これが、その地下室だが」
オルトナが順次、映像を切り替える。
「見てのとおりだ。特に変わったものはなく、武器はひとつもない」
セシルもワイアードも、地下室に武器を隠していると思っていたが、そこにあるのは電子機器が収められた制御盤だ。
ボルグは、それを見ながら語る。
「ロディオン司令官から地下室の話をきいたとき、地下室のデータをいくら探しても見つからなかった」
眠れない日々を送っていると、不意に直感が走った。
「ならば、ウルトラシークレットだと思い、部下たちに物理的な資料がのこっていないか探させたんだ」
みんながボルグに注目する。彼は、ふたたびオルトナに顔を向けた。
「オルトナ、例のやつを」
「はい」
オルトナは、古びたパソコンを取り出してみんなに見せる。
「いま、オルトナが出したのは、ダーモスのパーソナルコンピューターだ。情報局の地下保管庫で発見したよ。地下室の映像のデータも、この中にあった」
セシルが疑問に思うことをボルグに投げた。
「ダーモスにすれば、見つかれば致命的になるのではないか? そんなものが、なぜ情報局の地下保管庫に」
「おそらく、あとで処分しようとして忘れたまま、ほったらかしにされていたのだろう」
ワイアードにも疑問がのこる。
「中継局の地下の設備が、ダーモスとどういう関係があるんだ?」
「当時のログがのこっていた。ウルトラシークレットだと思ったが、ちがったよ」
オルトナが、ログデータの映像に切り替える。データは、三十五年まえのものだ。
最初に声をあげたのは、官房長官のアルオーズだった。
「そうか、そういうことだったのか!」
セシルには、まだわからない。三十五年まえの彼女は幼い子どもなので、無理もない。
ワイアードが、横から言葉をかける。
「ファーマイン」
ふり向いたセシルに、彼はいった。
「三十五年まえに、この惑星アーカスでなにが起きたか知っているか」
まだ三才のときだ。その当時の記憶はあやふやで、忘れているというより覚えていないことの方が、はるかに多い。
──なにが起きたか?
顔を上げて、映像のデータを見る。
毎日、更新されているデータには、死亡者の人数が記されている。
──やたら多いな
さらに、ある記号の横にも数字がある。こちらは極端に少ないが、ある時期から日を追うごとに増えている。
──いったい、なんの数字……っ!
不意に、ピンときた。
「こ、これはっ」
アルオーズが彼女に顔を向ける。
「わかったかね? われらアーカス人の歴史が変わるその所業に、ダーモス・コーネンは関わっていたのだよ」
ここで、レズリー大統領が声をあげる。
「この事実を、一刻もはやくシグマッハに知らさねばなりません。ラムド軍は専守防衛を徹底し、政府はシグマッハと話し合いができるよう全力を尽くします」
セシルは思う。
──シグマッハは、果たして大統領の呼びかけに応じるだろうか
真実を知らないまま戦い続けるのは愚かだ。
──わがラムドの敵は、シグマッハではない……本当の敵は、別にいたのだ!
それが、三十五年という歳月を経て明かされた真実だった。




