◇ 思わぬ事実
統合本部の司令官ワイアード・ロディオンは、絶句する。
──ダーモス・コーネン……だと?
ここでその名が出てくるとは、あまりにも予想外だ。
情報局長官のボルグは語る。
「中継局の建設から通信機器の設置まで、あの男が最高責任者となっていた。よからぬ企みがあったんだ」
「いったい、地下室にはなにが……」
「それは、大統領官邸で話す。すぐに来てくれるか」
「わかった」
ワイアードは、大統領官邸へ行く準備を整える。
──そうだ、ファーマインも呼ぼう
セシルに連絡し、彼女も官邸に来るよう施した。
彼らが大統領官邸に到着したとき、会議室にはレズリー大統領、そしてアルオーズ官房長官、さらに情報局からボルグ長官に部下のオルトナが、すでに待っていた。
会議室のデスクは、例のコの字型のデスクだ。ワイアードとセシルが、空いている席に座る。
レズリー大統領が冷静な声を響かせる。
「全員、そろいましたね。ではボルグ長官、お願いします」
「はい。みんな、まずはこれを見てほしい」
オルトナがキーボードを操作すると、モニタースクリーンにパラボラアンテナを備えた建造物が映し出される。
ボルグが説明する。
「これは、星間通信中継局だ。ラーホルンの第三区域にある流民収容施設が建てられるまえに、そこにあったものだ」
彼の言葉にセシルは驚く。
「流民の施設が建てられるまえ?」
「そうだ」
「中継局は、プルソスにあるのでは」
「ラーホルンから、プルソスに建て替えられたのだ」
セシルが「なぜ?」という顔をする。
ボルグの口から、予期せぬ言葉が出てくる。
「ダーモス・コーネンの大統領命令で、な」
セシルは、すべての思考が吹っ飛んだ。
ボルグの顔つきが厳しくなる。
「ダーモスは、もともと連合中立行政機関の、通信管理公社で働く職員だったのだ」
セシルは、己の記憶をまさぐる。
──連合中立行政機関……
彼女がまだ学生のころの話だ。ワイアードの方がセシルよりくわしい。
「ラムド政府が立ち上がるまえの、敵対する連合軍どうしが認めた行政機関だ。通信管理公社はそのなかの一つで、情報局の前身だよ」
ボルグは苦々しい顔をして、いった。
「あいつが情報局の前身である公社で働いていたなど、虫酸が走る。事は、三十五年まえに起きていたんだ」
まずは、これまでの惑星アーカスの歴史を理解する必要がある。
ラムド政府が成立する以前まで、惑星アーカスは十二の国々で成り立っていた。
志しを同じくする国どうしで協定を結ぶが、イデオロギーのちがいが彼らを戦争へと走らせる。
このとき、アーカス人の思想は真っ二つに分かれ、それぞれの連合軍が激しい戦闘を演じた。
戦争の末に双方が停戦に合意し、平和な日々がしばらく続くが、その平和は維持されることはなく、ふたたび戦争に突入する。
惑星アーカスは、ひたすらこのパターンを繰り返してきたのである。
二つの連合軍は、独自に他惑星からの援助を受けながら、戦いに明け暮れていた。
何度目かの戦争で双方が一時休戦に合意したとき、どちらにもかたよらない中立の行政機関を設立することに、お互いが同意する。
それが、連合中立行政機関である。これにより二つの連合軍は、まず戦闘禁止区域を設けることにした。
そこに星間通信中継局を造れば、安全に他惑星と通信ができる。各々の連合軍に、他惑星からの食糧や医療品などの援助物質は、問題なく届くことになる。
このような経緯で、ラーホルンに星間通信中継局が建設されることが決まったのだ。
これは、セシルが知らない事実だった。
だが、さらに彼女の知らない問題があった。ボルグが説明する。
「星間通信中継局の建設における最高責任者は、ダーモス・コーネンだったのだ」
死んでなお、絡んでくる男だ。




