◇ 驚愕
エルガーは眉をよせる。
──いったい、誰のパソコンだ?
不審に思った彼は、その顔をビルマンに向ける。
「長官に見せよう。もって行くぞ」
「はい」
エルガーは、保管庫に設置してある電話でボルグに伝える。
彼は、ボルグからすぐにもってこいと命令を受けた。
ボルグが通信管制室でエルガーを待っていると、彼らがあわただしくやってくる。
エルガーは、例のパソコンをボルグに見せた。
「こんな現物が、まだあったのか」
なにより疑問に思うのは
──なぜ、これが地下の保管庫に?
パソコンをよく見ると、職員コードが打ってある。
ボルグは、オルトナに指示する。
「このコードに該当する人物を探すんだ」
「はい」
公社だったころの職員コードなので、当時のデータは削除されているおそれがある。
ダメかもしれないと思ったが、意外にもすぐに判明した。
「わかりました」
「誰だ?」
名前をきいたボルグは、顔をひきつらせた。
「ダーモス・コーネン。第二代大統領ですね」
室内の時間が止まったように、全員が呆然となる。
われにかえったボルグは、焦ったように部下のダイアンに命令する。
「解析班にもって行って、このパソコンからすべてのデータをひき出せ。大至急だ!」
「は、はいっ」
ボルグの表情が険しくなる。まさか自分たちが葬った男の名前を、ここできかされるとは思ってもみなかった。
まったくデータのなかった流民収容施設の地下室の存在が、信憑性を帯びてきた。その地下室が、ろくでもないことに使われていた可能性が考えられる。
──あの男、なにを企んでいたのだ?
情報局の解析班は、数分でロックを解除し、すべてのデータをひき出すことに成功する。
驚くべき内容が、そこに収められていた。
事実を知ったボルグは驚愕する。
──ロディオン司令官に連絡せねば!
彼は、急いで軍の統合本部に回線をつないだ。
統合本部の食堂で夕食にありつく直前だったワイアードは、情報局からの緊急連絡に呼びもどされる。
さすがに、いい気はしない。だが仕方ないと自分を抑えながら、指令室にもどった。
通信隊員のルビンがボルグ長官からだと伝えると、ワイアードはすぐさま応答する。
「ボルグ長官、わたしだ」
「ロディオン司令官、例の地下室の件だが、わかったぞ」
「地下室は存在したのか?」
「そのまえに、流民収容施設ができる以前に、あそこになにがあったか覚えているか?」
予期せぬ質問に、ワイアードの頭の中が真っ白になる。
──流民の施設ができるまえ?
ボルグが答えをいう。
「星間通信中継局だ」
ワイアードは思い出した。
「ああ、そうだった。確かに、あそこにあったな」
星間通信中継局は、惑星アーカスが星間協定を締結している惑星との間で通信を行うための通信所だ。
惑星アーカスは、電波が乱れる電磁散乱層が上空をおおっている。飛行物体は、計器が狂ってまともに飛ぶことができない。
惑星アーカスの戦争で戦闘機が使われないのは、そのためだ。
星間通信が可能な場所は、非常にかぎられる。
電磁散乱層には、台風の目のようなスポットがいくつかある。星間通信は、そういう地点に中継局を造り、惑星の公転と同期する通信衛星を介して電波を送受信するのだ。
他惑星からの輸入物質なども、同じような場所でなければ、ぶじに運び降ろすことができない。飛行物体は、垂直移動できることが絶対条件となる。
現在、星間通信中継局は、プルソスという地域にある。
ボルグの顔が、険しさを帯びてくる。
「中継局をプルソスに移設するときいたとき、おかしいと思ったんだ。電波の状態は、ラーホルンの方が安定していたからな」
「すると、地下室はそのときからあったということか?」
「そうだ」
「なぜ、長官の君は知らなかったんだ?」
「情報局のデータには、のこさないようにしていたんだ。あいつがな」
ワイアードは眉を寄せる。
──あいつ?
思わぬ人物の名前を、ボルグが告げる。
「ダーモス・コーネンだよ」




