◇ 見えない敵
ラパノスに進行したシグマッハの部隊は、とうとうラムド軍の第二防衛ラインを突破した。
街の人々は、すでに避難している。
シグマッハの幹部ガラハッド・ベルコが、めずらしく部下たちを率いて前戦に出ている。
「あのビルだ。支配しろ」
総合建設会社のビルだ。八階建てである。
七人の部下たちは、ショットバズーカを携えながらビルに入ってゆく。避難勧告が出ているため、街には誰もいない。
建物に入った時点で、支配したといえる状況だ。
街の中心部まではまだ距離があるが、このビルから確認できるラムド軍の迎撃部隊を殲滅すれば、目的は果たしたも同然だ。
ガラハッドは、自分の兵隊に顔を向ける。
「エレベーターは動くか?」
「はい、動きます」
「よし、五階まで行くぞ」
部下たちは「了解」といいながら、二つあるエレベーターに次々と乗り込んだ。もちろん、ガラハッドもそのなかにいる。
五階に到着する。みんながエレベーターから降りると、一人がある物を指さした。
「あれはなんだ?」
別の兵隊が答える。
「脱出用のシュートだ」
火災が起きたときの避難設備だ。
「まあ、俺たちが使うことはないな」
「そうだな」
リーダー格の男が、彼らに怒声を飛ばす。
「むだ話してるんじゃねえっ、もたもたするな!」
彼らは早足に目的の部屋へ向かう。そこは第二企画事務室だ。
部屋の前まで来ると、ガラハッドは部下たちに命令する。
「手筈どおりに、窓の外からラムドのやつらを狙い打て!」
「はっ」
部屋のドアが、右にスライドするように開く。兵隊たちが中に入った。
あらかじめ打ち合わせした配置に着こうとした、そのとき──
「ぐっ」
兵隊の一人が、首を締められたように苦しんでいる。
ほかの仲間が彼に目を向けるが、独りで苦しんでいるようにしか見えない。
「どうした? なにを……うっ」
声をかけた兵隊は、左膝をガクッと落とす。膝の裏を突かれたのだ。
直後、首の右側から鮮血がほとばしる。
最初に首を締められた兵隊は、うつ伏せに倒れた。すでに絶命している。
明らかに、ラムド軍の攻撃だ。だが、姿が見えない。
ガラハッドの額から、冷や汗が滴る。
──これは……光学迷彩か?
三人目の犠牲者は、ドンッという音とともに吹っ飛んだ。血を吐きながら倒れた彼のアーマースーツは、腹の部分がへこんでいる。
どういう攻撃を受けたのか、さっぱりわからない。パニックに陥りそうな状況で理解できることは、ひとつ。
──このままだと、全滅する!
ガラハッドが、そう思ったときだった。
彼の胸に、なにかがピタッと触れる。
「?」
次の瞬間──
ドンッ!
ゼロ距離打撃が炸裂する。ガラハッドは吹っ飛ばされた。それを見た部下たちは、口々に叫んだ。
「た、隊長!」
「大丈夫ですか、隊長っ」
「隊長、ベルコ隊長っ!」
三人の部下が彼に近より、一人が部屋中にビーム弾を撒き散らすように撃ちまくる。
アーマースーツの胸の部分が破壊されたガラハッドは、苦しみながら必死で声を出す。
「退け……撤退……だっ」
ビキッ、ビキッと身体が硬直するガラハッドを、兵隊たちは部屋の外に連れ出す。
最後の一人は、見えない敵を近よらせないよう、ビームマシンガンを撃ち続ける。
光学迷彩で姿を消しているラムドの隊員たちは、ビーム弾が当たらないよう身体を低くしている。
シグマッハの全員が部屋から出ると、ドアが閉まる。彼らはガラハッドを連れて、エレベーターへ急いだ。
しかし、エレベーターに乗れたとしても、降りたところに見えない敵が待ちかまえていると……そんな不安が、彼らの頭をよぎる。
エレベーターの前まで来たとき、兵隊の一人が思い出した。
「そうだ、脱出用のシュートがあったんだ!」
「どこだ?」
「あれだ。でも、どうすれば」
「任せろ、俺がやる」
使い方を知っている彼が、脱出シュートを機能させる。その間に、もう一人はビームマシンガンを構えて警戒する。
準備をしながら下にいる仲間に通信を送った。
「ベルコ部隊だ、撤退する。隊長がやられた」
「ベルコ隊長が? まさか」
「脱出シュートで下に送り出す。頼んだ」
「このシュートは、おまえたちが……」
「もたもたしていると全滅する、行くぞ!」
「わ、わかった」
彼らは最初にガラハッドを送り出し、次々に脱出シュートで退避するのだった。




