◇ 地下室の痕跡
早朝、ラーホルンの第三区域にある流民収容施設に、セシルたちが到着する。
装甲車でやってきたのは、隊長のセシル・ファーマインに副隊長のレミー・モルダン、ほかに運転手を含めた特機隊の部下が二人いる。
夜中に起きた被害は暗くてよく把握できなかったが、日が差すと一階の壁一面に派手な攻撃を受けた跡が、はっきり見える。
セシルはドノヴァンや警備員たちに会うと、どういう状況だったか説明を受ける。
ひととおり話をきいたセシルは、レミーに命令を下した。
「地下室があるかどうか、レイズで調べてくれ。一階の部屋の下、全部だ。念のため、建物の周辺もチェックした方がいいな」
「了解」
「シュルツ、おまえはモルダンといっしょに行動するように」
「はいっ」
セシルは連れてきた部下に、装甲車に積んである通信機を運ばせる。故障した警備室の通信機を、これに取り替えるのだ。警備員が彼らを案内する。
セシルとリナ、ドノヴァンがその場にのこった。
セシルはドノヴァンに尋ねる。
「やつらは、どこから入ってきたんだ? 正面からではないだろう」
施設の正面は、L字型の建物の内側だ。
「逆だよ。つまり、こっち側だ。あいつらが撤退するとき、あっちに……ほら、フェンスが壊されているだろ」
三人は、そこまで足を運んでゆく。破壊されたフェンスは、電磁サーベルで叩き切ったようだ。
フェンスが壊されると警備室にアラームが発するシステムだが、シグマッハには知ったことではなかったのだろう。
セシルがそこから外をのぞくと、地面にタイヤの跡がある。装甲車でここまで来たようだ。それも、一台だけではない。
彼女は眉をよせる。
「本格的に襲ってきたのだな」
ドノヴァンが口をひらいた。
「幹部が来るぐらいだからな。あいつらは、本気だったよ」
セシルは彼にふり向いた。
「おまえがいなければ、流民たちは皆殺しだったろうな」
あり得る話だ。
壁の方へもどり、被害状況を見る。バズーカでの攻撃だと思えるが、何発も打ち込まれているのを見ると、この建物が頑丈な造りであることを事前に調べて、いくつもの弾薬を用意していたにちがいない。
セシルたちが現場検証を行い、三人で話していると、レミーとローヌがもどってくる。
彼女たちはセシルと合流すると、レミーが調査の結果を報告する。
「隊長、終わりました」
「地下室はあったのか?」
「地下室はありません。ですが──」
思いもしなかったことが、レミーの口から出てくる。
「この建物から少し離れた、L字型構造の内側には、ポルクリーマが埋まっている箇所があります」
「ポルクリーマ?」
惑星アーカス特産のポルクリーマは、主に建築現場の埋め立て工事に使用される、特殊な凝固剤だ。
「そうです。広さはモニター室と同じぐらいで、深さは各部屋の高さとほぼいっしょですね」
つまり……
──地下室は、本当にあったのか?
セシルは「本部に連絡してくる」といって、装甲車に向かった。
装甲車の通信機で、統合本部に回線をつなぐ。
「特機隊のファーマインだ。ロディオン司令官を頼む」
すぐに、司令官のワイアード・ロディオンが通信に出る。
「わたしだ。ファーマイン、どうした?」
「きのう話したように、ラーホルン第三区域にある流民収容施設の調査に来たんだが、その結果、確かに地下室の痕跡が見つかった。建物から少し離れた場所なんだが、いまは埋め立てられている」
「なんだって?」
そういう話は、ワイアードも初耳だ。
「オズマの話では、シグマッハはその地下室に破壊兵器があるという情報をつかんだから、やって来たといっている」
「知らないな。これまで地下室の話は、きいたこともない」
「……わたしにも、いえないことなのか?」
「いや、本当に知らないのだ。情報局に当たってみよう」
なにかわかれば連絡するということで、本部との通信は終わった。




