◇ 疑惑
流民収容施設に到着した車から、リナとローヌが焦ったように出てくる。ガイは車の中で待機だ。
建物の裏に移動し、攻撃を受けた壁に目を移す。夜間で暗い状態ではあるが、彼女たちが思っていた以上にシグマッハの攻撃が激しいことが、伝わってくる。
二人は銃を手にする。警戒しながら近づこうとしたとき、壁の穴から誰かが出てきた。
その人物に銃口を向けたリナが、驚きの声をあげる。
「ドノヴァンさん?」
「あ、リナちゃん」
まさか、彼がこの施設を破壊しようとしていたのか?
そういう想いが頭をよぎったとき、施設から二人の警備員があらわれた。彼らがリナに報告する。
「ご苦労様です。シグマッハの部隊から攻撃を受けましたが、この方がシグマッハの侵入を防いでくれました」
疑いが解けた。そもそも、ドノヴァンが施設を破壊するとは思えない。
彼らは説明を続ける。
「シグマッハは、先ほど撤退しました。怪我人はいません。みんなぶじです」
その言葉に、ホッとした。被害状況をきくと、一階の壁一面に攻撃を受けたが、大きな被害は穴があいた部分だけのようだ。
ただ、警備室の通信装置が機能しないらしい。
リナは、ガイが待機している車まで足を運び、車内の通信機で特機隊の基地に連絡する。
「ジーグです。隊長をお願いします」
助手席に座って待っていると、ほどなくセシルが応答に出る。
「わたしだ。いま、施設にいるんだな? どんな状況だ」
「シグマッハは、すでに撤退していました。施設にいるみんなは、全員ぶじだということです。ドノヴァンさんが、施設への侵入を防いでくれたそうです」
「あいつが?」
「はい」
それから、被害状況を報告する。伝えるべきことを伝えて通信を切ろうとしたとき、ドノヴァンがそれをさえぎった。
「リナちゃん、ちょっと待って」
「え?」
「俺から君の隊長に、いうことがあるんだ。代わってくれる?」
リナはその旨をセシルに告げて、ドノヴァンに代わった。
「ラムドの隊長か? オズマだ」
「特機隊隊長のファーマインだ。施設を守ってくれたそうだな、礼をいう」
「礼にはおよばない。それよりも、あんたにききたいことがある」
「なんだ」
「この施設に、地下室はあったのか?」
通信機の向こうで、セシルが眉をよせる。
「地下室?」
ドノヴァンが説明する。
「あいつらがなぜここへ来たかというと、この建物の地下に破壊兵器があるとの情報をつかんだからだ」
「そんな話は、きいたことがない」
「シグマッハの情報部隊は、馬鹿じゃないぞ。これまでラムド軍を相手に互角といえる戦いができたのは、情報部隊が優秀だからだ」
それは理解できる。扱う武器に大差はなく、人数においてはラムド軍の方がシグマッハを余裕で上回っているはずなのに、重要な戦闘では毎回苦戦を強いられる。
「最初は、あいつらが間違えてここへ来たと思ったんだが、確かな証拠をつかんでいないかぎり、ウォーデス総隊長はむだに部隊を出動させることはないはずだ」
「………」
いわれてみれば、シグマッハがこんな流民しかいない建物を襲う理由が、ほかに見当たらない。
「わかった。そっちへ行って調べてみよう」
セシルはそういうと、ドノヴァンにリナと代わるように伝える。
代わったリナに、セシルは告げる。
「おまえたちは、そこで待機するんだ。わたしとモルダンが、そっちへ行って調査する」
「了解しました」
リナとローヌは、施設の空いている部屋のベッドで休むこととなった。ガイは、施設の通信設備が機能しないため、非常時の通信に備えて車内で休むことにする。
ドノヴァンは、施設の職員から彼らが使う仮眠室をあてがわれた。その部屋には、緊急時のための電話がある。なにかあった場合にもっとも頼りになるのは、彼だろう。
ドノヴァンは了解した。
二日後、セシルとモルダンが装甲車でブルガナンに到着する。
それから一夜明けて、セシルたちはラーホルンに向けて出発するのだった。




