◇ 困惑
ラーホルンの第三区域に侵入したシグマッハの兵隊たちは、流民収容施設に向かった。
幹部であるゼノバ・リジン隊長が、直々に部隊を率いている。彼のレイズは、夜でも赤外線センサーで感知するようによく見える。夜襲には実に適しているレイズだ。
施設の警備は、それほど強固ではない。入口は警備員さえ立っていない状態だ。
しかし、建物そのものは、なかなか頑丈な造りをしている。それは事前に調べている。
兵隊は、まず建物の裏へまわり、敷地を囲っているフェンスを破壊する。施設の警備室にアラームが鳴り響くが、彼らの知ったことではない。
続々と敷地内に入ると、一階の壁をバズーカで攻撃する。
立て続けに放たれる攻撃に、最初は地震かと思った流民たちは、地震ではないことを確信する。それはシグマッハの仕業以外に考えられない。
あわてた警備員は、すぐさまラムド軍統合本部に連絡する。いま施設にいる警備員と職員あわせて五人は、シグマッハの兵隊たちとわたりあえるほどの強力な武器は有していない。
まずいことに、状況を報告している途中で通信が切れてしまった。通信設備に異常が生じたらしい。
兵隊たちの攻撃は続いている。なかなか壊せない壁だが、一点に集中攻撃をかけるようにした。そしてとうとう、人が入れる大きさまで壁を破壊したのだった。
穴をあけられたのは、憩いの部屋だ。兵隊が一人、二人と施設内に足をふみ入れる。
そのとき──
ズズンッ
彼らは、頭上から見えない力に圧し潰される。
あとに続こうとした兵隊たちは驚き、足を止める。部屋の中に、こんな防御システムがあるとはきいていない。
慎重に穴から顔をのぞかせる。そのとき、穴の左側から男の声が響いた。
「なにやってんだ、おまえら」
赤外線ゴーグルをとおして彼を見た兵隊は、唖然となった。
──な、なんで、この男が……
ドノヴァン・オズマが、侵入しようとする者を鋭い目でにらんでいる。
ドノヴァンを確認した兵隊が、隊長に報告する。
「リ、リジン隊長」
「どうした」
「オズマがいますっ」
「なんだと!」
シグマッハの幹部ゼノバ・リジンが、壁の穴から部屋の中に足をふみ入れる。左に離れたところに、ドノヴァンがいるのを見た。
「オズマ。おまえ、なんでこんなところに?」
「それはこっちのセリフだ」
ゼノバは銃口をドノヴァンに向けようとはしない。ドノヴァンも彼を殺そうとは思っていない。
二人とも、話し合う余地があることを瞬時に理解している。
ドノヴァンが言葉を続ける。
「流民の施設なんか襲って、どうするんだ。ここは、おまえらが必要とするものなんか、なにもないだろ」
ゼノバは答える。
「この建物の地下に、破壊兵器が隠されている情報をつかんだのだ。われわれの目的は、それを手に入れることだ」
ドノヴァンが、あきれた声を出した。
「馬鹿か、おまえらは」
外にいる兵隊たちは、壁に貼りついたまま動かずに、二人が話すことに耳をかたむける。
「そんな兵器があれば、ラムドがとっくに使っているだろ。シグマッハは、いまよりももっと窮地に追い込まれているはずだ」
確かにそうだ。ゼノバは思考が吹っ飛び、なにもいえなくなってしまった。
「わかったら帰れ。昔のよしみだ、殺さずにいてやるよ」
ドノヴァンのレイズを食らった二人の兵隊は、自力では立てないほどのダメージを受けているが、まだ息はある。
しばらく呆然となっていたゼノバは、倒れている兵隊を指差しながら、外にいる部下に命令するのだった。
「二人を部屋の外に出せ」
それが終わると、ゼノバも外に出る。
部屋の中から、みんなが撤退する様子を見ているドノヴァンに、ゼノバはふり向いた。
「おまえは、なぜここにいるんだ?」
「流民になったんだよ。俺はもう、シグマッハにもラムドにも、兵士として与することはできない」
「………」
「いっておくが、俺はこの施設を守るためにここにいるんじゃないからな」
信じてよさそうだ。そんなゼノバに、ドノヴァンがいった。
「二度と来るなよ」
ゼノバは言葉を返すことなく、部隊のみんなを連れて立ち去るのだった。
一応、片はついた。だが、ドノヴァンの表情は冴えない。
──変だな
いろいろと、ひっかかるものがある。
しばらくして、リナたちが乗ったラムド軍の3号車両がやってくる。




