◇ 予想外の現実
数日後──ラムドまで飛んでいたノーティスが、シグマッハの本拠地に帰ってくる。一応、それなりのデータは手に入れた。
即座に、幹部会議が開かれる。
作戦会議室でノーティスからメモリーチップを受け取ったゼノバが、ディスプレイモニターをかねたデスクにそれを挿入する。
デスクの上面に、流民収容施設の見取り図が映し出される。
ノーティスの表情は、帰ってきたときからすっきりしない。
「見取り図は手に入れたけど、地下室の図面がないんだ」
予想外だった。
厳しいセキュリティをかいくぐり、なんとかデータを手に入れた。データには施設の構造図面だけでなく、各室内の映像も収められていたのだが、地下室に関するものは一つもなかった。
「政府軍のファイルまで調べたけど、見当たらなかったよ。もっとも、軍の最高機密情報までは手がとどかなかった」
みんなの顔が渋くなる。ガラハッドがファルコにふり向いた。
「ガセの情報ではないのか?」
ファルコの思考が頭の中で淀んでゆく。
この現実を考えれば、ルオードが入手した情報を疑問に思うのは無理もない。しかし、地下室の情報がガセだとすると、彼がもってきたメモリーチップがどうにも引っかかる。
──なぜ、あんなところにチップが?
わずかなデータしか入っていなかったとはいえ、かなり重要だと思われる内容である。そういうものが流民収容施設で見つかるのは、どう考えてもおかしい。
ファルコは頭が混乱しそうになる。だが、彼は冷静さを失う男ではなかった。
思考を切り替えたファルコは、みんなの意見をきいてみる。
「おまえたちは、どう思う?」
ゼノバが答える。
「チップ自体が古いので、その中に入っているデータが偽物だとは思えないな」
ディガーがうなずいた。
「ラムドがこんな真似をしてまで、われわれを罠にはめようとするとは、ちょっと考えられませんね」
ガラハッドが、急になにかを思い出したような顔をする。
「極一部の人間しか知らない超機密情報というものが、ラムドにはあったな。確か……」
ファルコが目を見開いた。
「ウルトラシークレットか!」
腕を組んで彼らの話をきいていたノーティスは、なるほどと思った。
「そうだとすると、地下室の情報は記録されてなくて当然かもしれないな。ウルトラシークレットは、データをどこにものこさない。絶対にね」
結論が導き出される。
──地下室は……ある!
そういう前提で、作戦が立てられてゆくのだった。
ユードルトにあるラムド特別機動部隊の基地では、リナが指令室に呼ばれる。
呼ばれたのはリナだけではなかったようで、アイロブでいっしょに巡回任務を行ったローヌ・シュルツも指令室に来ていた。
リナが入ってくると、セシルが彼女に告げる。
「ラーホルンへ行ってくれ」
「ラーホルン、ですか?」
特機隊の基地からは、けっこう離れている。ふつうの車両だと、必死で飛ばしても二日はかかる距離だ。
セシルが具体的な目的地を告げる。
「あそこに流民収容施設がある」
「敵の襲撃ですか?」
「いや、そうじゃないんだが……」
セシルは困惑する表情を見せる。彼女がいいよどむのは、めずらしい。
「とにかく、シュルツと二人で流民収容施設に向かってくれ。第三区域だ。流民どうしの間でトラブルがあれば、おまえたちで収めるんだ」
「はい。移動は、グランドランサーで?」
「そんなに急がなくていい。ユングが運転する3号車を準備している」
「了解しました」
リナはそういって、シュルツといっしょに指令室を出る。
3号車は、補強が施してある特殊車両だ。統合本部や大統領官邸で会議をするときの移動に、よく使われる。
リナは、セシルの困惑した顔が気になる。
──流民収容施設で、なにがあったのだろう?
予期せぬことが起きたのだと思う。だが、リナには見当もつかない。
また、リナは同行するローヌがちょっと心配になる。アイロブでの彼女のあわてふためいた様子を見るかぎり、行動をともにする者としては気がかりだ。
ともあれ、二人は基地から出ると3号車に乗り込んだ。
ガイ・ユングの運転する車が、ラーホルンに向けて静かに発進する。




