◇ 未知なる兵器
シグマッハ情報部隊の隊長ルオード・ネイザーが、私服姿でシグマッハ本部の指令室に入ってくる。
ファルコが彼に向かって口をひらいた。
「待ちかねたぞ」
ルオードはズボンのポケットに手を突っ込むと、変換ソケットが附属されたメモリーチップを取り出した。
「これです」
「かなり古いな。使えるのか?」
「変換ソケットを入手するのにてこずりましたが、大丈夫です。現地で確認しました」
チップを受け取ったファルコは、時を惜しむようにいった。
「よし、見てみよう」
部下のサイアスにそれを渡し、データをモニターに出力する。
「パスワードもありません。おそらく、バックアップ用のデータですね」
モニターに最初に映し出されたのは、座標だった。
ファルコは別の部下に命令する。
「この座標を調べろ」
「はっ」
その間に、次のデータを見る。簡素な文体が表示される。
〈シークレットNo.26〉
─地下室に設置完了
─動作テスト異常なし
─死亡者の人数を順次報告すべし
データの内容は、これだけだった。だが、これはシークレット情報であり、地下室で極秘になにかを計画していたことが考えられる。
ルオードが、思ったことを口にする。
「すべてのデータをバックアップしているわけではなさそうです。なんらかの理由で途中で止めたか、あるいはできなかったみたいですね」
ファルコはうなずいた。
「かなり古いデータのようだ」
座標を調べていた部下が伝える。
「場所がわかりました」
「どこだ」
「ラーホルンです」
ファルコたちは、部下が見ているモニターの方へ移動する。正確な位置が解析され、現在地が特定される。そこには、ある建造物が映っている。
ルオードは驚いた。
「チップを見つけた施設だ。流民を収容する施設です」
彼は避難民に扮して建物内に潜り込み、このメモリーチップを見つけたのだ。
ファルコが彼に問いかける。
「地下室の入口は、わかるか?」
「いえ、それが……地下室はありません。なかったはずです」
「妙だな」
しかし、データが記録している座標は、モニターが映している場所と一致する。
ディガーが、自分の考えをファルコに話した。
「地下室への秘密の扉があるのでは?」
ルオードがもってきたメモリーチップが、その建物内で見つかったのだ。その可能性は、十分にあるだろう。
ファルコはサイアスに命令する。
「幹部全員を、作戦会議室にくるよう伝えろ」
「はっ」
ファルコはチップをもって、ディガーとともに作戦会議室へ向かうのだった。
口元に笑みが浮かぶ。
──希望が見えてきたぞ、フフフ
作戦会議室にファルコをはじめとする幹部たちが集まり、天板がディスプレイモニターになっているデスクを囲んでいる。
そのデスクにメモリーチップを挿入すると、天板にラーホルンの地図が表示される。
ファルコが右手の人差し指で、ある一点を示した。
「ラーホルンのここに、流民を収容する建物がある。ネイザーがつかんだ情報では、この地下になにかあるらしい。おそらく、破壊力の凄まじい兵器だと思う」
ゼノバが質問を飛ばす。
「地下室へは、どうやって?」
ファルコは答える。
「ネイザーの話だと、地下室は見当たらなかったらしい。だが、おそらく秘密の扉があると考えられる」
ガラハッドが眉をよせる。
「建物の内部がどういう構造になっているのかわからなければ、スムーズに行動できないぞ」
確かにそうだ。ノーティスも同じことを思っている。
「見取り図が必要だね。俺がなんとかしよう」
ファルコは彼の方をふり向いた。
「バルジ、頼むぞ。すべては、この施設の内部構造を把握してからになる」
「ああ。じゃあ、さっそく行ってくる」
ラムド政府の管理下に置かれる様々なもののデータは、情報局に収束される。そこにあるデータを外部からひき出そうとしても、パスワードはもとよりアクセスを許可している機器コードが合致しないとひき出せない。
機器コードは、情報局にアクセスした時点でホストコンピューターが判断するので、許可していない機器からアクセスしようとしても弾かれる。
つまり、直接ラムドの情報局まで行って、現場の機器からデータを奪取するしか方法はないのだ。




