◇ メダルの意味
アルオーズがリナに向かって口をひらいた。
「リナ・ジーグ隊員。君は、このメダルを彼から譲り受けたことを証明できるかね?」
リナの代わりにセシルが答える。
「ノーティス……いや、レオナッシュ本人がメダルをジーグに渡すのを、監視カメラがとらえています。また、ジーグと同行していたシュルツがそばにいたので、彼女が証人になるでしょう」
アルオーズはうなずいた。
「このメダルは、もっているだけではダメなんだ。正統後継者から譲り受けたことが証明できなければ、その権利を相続することはできない」
リナには、権利や相続といわれてもよくわからない。
アルオーズは言葉を続ける。
「ファーマイン隊長の説明をきくかぎり、君はレオナッシュから、彼の権利を正式に引き継いだと認めることができる」
まだピンとこないリナに、彼はわかりやすく説明する。
「君は、現在保留状態になっているレオナッシュ・バルフォードの財産を引き継ぐ資格を得たのだ。彼の家族が住んでいた初代大統領の屋敷と、人生が終わるまで遊んで暮らせるほどのお金、さらに国があずかっているバルフォード家の財宝が他にもあり、そのすべてが君のものになるのだ」
リナもセシルも、ものいわぬ石像のように固まってしまった。
レオナッシュは父親の仇を討ってくれたリナに恩返しするため、それほどの財産を彼女に譲ろうとしたのだ。
「リナ・ジーグ隊員。手続きが完了すれば、すぐにでもその財産は君に……」
アルオーズが話している途中で、リナはあわてて叫ぶような声をあげる。
「う、受け取れません!」
いままで、特機隊のみんなとともに命をかけて戦ってきた。彼らのおかげで、いまの自分があるともいえるのだ。
自分だけが、みんなとくらべて格段に裕福になりたいとは思わない。なにより、シグマッハとの戦争は、まだ終わってはいないのだ。よけいなことは考えたくない。
彼女はそう思うのである。
「わたしには、あの人がなぜ、そのメダルをわたしにあずけようとしたのか、理由がまったくわかりません」
セシルが横から口をはさんでくる。
「司令官がいったように、おまえが彼の父親の仇を討ったからだよ」
「え?」
「レオパルド初代大統領は、ダーモス・コーネンに殺されたといっていい。そのダーモスを暗殺したのは、他ならぬおまえだ」
「………」
「どこでこの事実を知ったのかわからないが、彼は自分の父親の、死の真相を知っている。われわれのウルトラシークレットのことも、な」
アルオーズが、リナに確認する。
「リナ・ジーグ隊員。君はレオナッシュ・バルフォードの財産を受け継ぐことができるが、どうする?」
リナは、はっきり答えた。
「受け取れません。拒否します」
「本当に、それで良いのかね」
「はい、けっこうです」
アルオーズはレズリーに顔を向ける。
レズリーは了解したように、首を縦にふった。
「わかりました。レオナッシュ・バルフォードの財産は、いままでどおり保留とします」
リナは、ホッとした表情を浮かべる。そんな彼女に、アルオーズが再度尋ねた。
「このメダルは、君のものであることに変わりはない。君自身がもっているか、あるいは政府が保管するという手段もあるが」
リナは即答する。
「政府で保管するよう、お願いします」
「了解した」
これで、レオナッシュの財産に関する問題は終わりを迎え、みんなは解散するのだった。
特機隊に帰りがてら、車を運転するセシルは、独り言をつぶやくようにいった。
「まさか、あの男が初代大統領の息子だったとはな」
リナがうなずく。彼と花屋で会ったあの日は、初代大統領である彼の父親の命日だった。
「わたしも驚きました。しかも、シグマッハにいたなんて」
なぜ、そうなってしまったのか。やっぱり彼とも戦わなければならないのか。
全然、笑えない話だ。二人とも、やるせない想いがぬぐいきれない。




