◇ ファルコとの邂逅
兵士の一人が、後ろから首を締められる。
「ぐっ」
頭の右側に、ツンッとなにかを当てられた。背後から声が響く。
「俺が本気だったら、あんたは死んでるよ」
レオナッシュがレイズを解き、姿を見せる。兵士の頭に人差し指を当てた彼は、その兵士を解放する。
「組織の指導者に会って、話がしたい。俺なら、みんなの役に立てる」
もう一人の兵士が、ひきつった顔で言葉を返した。
「……そこで待ってろ」
彼はそういうと、建物の中に入っていった。
しばらくして、兵士がもどってくる。その兵士が、レオナッシュに伝える。
「来い。ウォーデス総隊長が、おまえに会うといっている」
レオナッシュは、案内する兵士について行く。ガラの悪い連中が彼に顔を向けて、薄気味わるい視線を突き刺してくる。
ある部屋の前で足を止める。兵士がドアをノックすると、中から「入れ」という声がきこえた。
兵士がドアを開けて入り、レオナッシュがあとに続く。
さほど広くない部屋に、スクエアのテーブルを前にしてシグマッハの総隊長ファルコ・ウォーデスが座っている。
その横に、二人の兵士が立っている。
「俺と話がしたいというのは、おまえか」
ファルコは、テーブルの対面にある椅子を顎で指す。レオナッシュを連れてきた兵士は部屋を出て行き、レオナッシュは椅子に座った。
ファルコの全身から威圧感が放たれる。
「小僧、なんの話がしたいんだ?」
レオナッシュは怖じ気づくことなく、言葉を返した。
「二人だけで話したい」
「俺の仲間が信用できないのか」
「この部屋には、隠しカメラや盗聴器もあるんだろ。切ってくれないか」
ファルコの目が凄みを帯びる。
「いい気になるなよ、小僧」
レオナッシュは服のポケットに突っ込んでいた右手を前に出し、持っていた物をテーブルの上に置いた。
直径八センチほどのメダルだ。それを見たファルコは、驚きをあらわにする。
彼は知っている。そのメダルは、ラムドの貴族の一族を証明するものだ。
「おまえっ」
レオナッシュは「静かに」というように左手の人差し指を自分の口元に立てる。
ファルコの両横にいる二人の兵士は、そのメダルがなにを意味するのかわからない。
ファルコは大きく深呼吸すると、兵士たちにいった。
「おまえたちは部屋から出るんだ」
「し、しかし」
「大丈夫だ。はやく出ろ」
これで、部屋の中はファルコとレオナッシュだけになる。ファルコはモバイル通信機で、基地内の部下に連絡する。
「盗聴器を切れ」
部下の戸惑うような声が返ってくる。
「よろしいのですか?」
「かまわん」
ファルコはレオナッシュを見据えた。
「カメラは生かしておくぞ。素性の知らないヤツと二人だけになって無警戒でいられるほど、俺は能天気じゃないからな」
レオナッシュは、仕方ないという感じでうなずいた。
ようやく、話がはじまる。ファルコが目の前にあるメダルを手に取り、口をひらいた。
「このメダルは、ラムドの貴族であることを証明するものだろう。おまえは、ラムドの貴族なのか?」
「そうだ」
「なぜ、シグマッハの俺に会いに来たんだ」
「俺の父さんはシグマッハに殺されたとみんないっているが、俺はちがうと思っている」
ラムドの貴族の街、ラブロスを襲撃することは考えている。しかし、まだ計画を立てる段階ではない。
「おまえの父親というのは、誰だ?」
レオナッシュは、ファルコが持っているメダルを指さした。
「その紋章に見覚えはないかい?」
問われたファルコは、メダルの紋章をじっと見る。確かに見覚えがある。
思い出したとき、自分の目の前にいる若い男が誰なのかが、わかった。ファルコの顔色が一変する。
「まさか、おまえは!」
「察しのとおりだよ」
ラムド政府の大統領の息子が、シグマッハの本拠地へ独りで来るなど、誰が想像できよう。




