◇ ノーティスの正体
セシルの思考が追いつかない。
「待ってくれ。わたしには、ノーティスというあの男とそのメダルと、ジーグとの関係がまだつながらない」
それはリナも同じである。
ワイアードは、大統領の前に置いてあるメダルを指さした。
「ファーマイン、あのメダルの模様に見覚えはないか?」
やはり、この模様が大きく関わっているのだ。
「どこかで見たような気がするのだが……」
思い出せないセシルに、アルオーズがいった。
「貴族でなければピンとこないだろうが、これは一族の人間であることを示す紋章なのだよ」
「紋章?」
そういえば、ノーティスは貴族の街アイロブに来ていた。
──ヤツは、本当にラムドの貴族だったのか?
リナがアルオーズに疑問を投げかける。彼女は、アルオーズがときどき自分に会いに来る人物だとは、わかっていない。ふだんの、メガネをかけていない気難しい顔の彼は、まるで別人なのだ。厳かな声の響きも、まったくちがう。
「あの、ノーティスさんのお父様というのは、誰なんですか?」
レズリーの目から、涙がこぼれる。それを見たリナもセシルも驚いた。
レズリーがノーティスの父親を知っているのは、明らかだ。
アルオーズの言葉に、哀しみがこもる。
「メダルの紋章は、バルフォードの一族をあらわしている」
セシルの目が大きく見開かれ、彼女は思わず椅子から立ち上がった。
「ま、まさか!」
アルオーズは、ノーティスの父親の名前を彼女たちに告げるのだった。
「彼の父親は、初代大統領レオパルド・バルフォードだよ」
セシルもリナも、声が出ないほど驚嘆する。
「そしてノーティスと名のる彼は、現在行方不明となっている初代大統領のひとり息子、レオナッシュ・バルフォードだろう」
息をすることさえ忘れそうになるほどの驚愕の真実に、リナもセシルも呆然となる。
驚きのあまり声も出なかったセシルは、椅子に座りながら不可解に思うことを、ようよう口に出す。
「どうして……大統領の息子が、シグマッハに?」
ワイアードが沈痛な顔をして、思ったことを言葉にする。
「父親の死に、疑問を抱いたのだろう。ラムドの人間が信じられず、独りで真実を探そうとしたのかもしれない。そこで、シグマッハを頼ったのではないかと思う」
そのとおりだった。
ノーティス──いや、レオナッシュ・バルフォードは、父親が殺されたことが信じられなかった。
当時、彼はまだ二十歳前の学生だったが、同年代の誰よりも頭が良かった。
──部屋のドアには警備員が貼りついているのに、どうやって中に
疑問は、それだけではない。
──犯人が外から入った形跡も、外に出た形跡もないって、どういうことだ?
レオナッシュは、ワイアードよりもはやく、父親の殺害はシグマッハの仕業ではなくラムド内部の犯行だと考えた。
彼を襲った不幸は、それだけではなかった。母親のルーネリアが夫の死亡をきいて倒れ、病院へ運ばれる。彼女は、その一週間後に亡くなったのだ。レオパルドが死んだことによるショックが原因とされている。
まだ十代のレオナッシュを独りにするわけにはいかないと、親族や議員たちが話し合うなか、彼は失踪する。関係者たちは大慌てでレオナッシュを捜索したが、どうしても見つけることができず、レオナッシュは行方不明者として当局に登録されることになる。
レオナッシュは己の一族を証明するメダルを持ち出し、屋敷を出て行くというメッセージをのこしてラムドを離れたのであった。
やがて彼は、シグマッハの組織を統括するファルコに会いに行くことを考える。
リュックバッグを肩にかけ、やっとエルジダンに到着した彼は、シグマッハの本拠地にたどり着いた。だが、当然のように門前払いを食らった。
「ここは、おまえみたいなガキの来るところではない」
「さっさと帰れ」
レオナッシュは、ひき下がらなかった。
「あんたたちなら、簡単に殺せるけどな」
本部の入口を警備する二人の兵士は、頭に血がのぼる。
「このクソガキっ」
「ナメてんじゃねえぞ!」
レオナッシュは、己のレイズを発動する。当時の彼は、すでに自分のレイズに目覚めていた。それは、誰にも話していない。
兵士たちは仰天した。見えないレオナッシュを探すように銃を構えてキョロキョロする。
本当に殺されるのではないかと焦っている彼らの顔から、冷や汗が滴る。




