◇ 不可解な一件
困惑する想いが顔にあらわれるディアンが、眉をよせながらセシルに尋ねた。
「司令官に、なにを渡したんだ?」
「メダルだよ。どこかで見たような模様が刻まれていたんだが、司令官なら知っていると思って、もってきたんだ」
「あのあわてようは、ふつうじゃなかったぞ」
「ああ。まさか大統領まで関わってくるとはな」
セシルは、いつまでも特機隊の基地を留守にするわけにはいかない。統合本部を辞した彼女は、ユードルトの基地に向かって車を走らせるのだった。
特機隊の基地に到着したセシルは指令室に入ると、リナを呼び出すようイレーナに命じた。
しばらくして、リナが指令室にやってくる。
「お呼びですか、隊長」
「もう一度、あの男と接触したときのことをききたい」
「はい」
ふたたび、リナからくわしい話をきこうとするセシルである。
そのころ、大統領官邸では──
ワイアードがもってきたメダルを目にしたレズリー大統領が、声高に叫んだ。
「ど、どこでこれを!」
いっしょにメダルを見ている官房長官のアルオーズが、目をぱちくりさせている。
「特機隊のファーマインが、わたしのところにもってきたのです」
「ファーマイン隊長が?」
「ジーグが、シグマッハの幹部から受け取ったという話です」
「シグマッハの幹部?」
「保護色のレイズを使う以外、くわしいことはわからない男です」
レズリーはワイアードに命じる。
「大至急、ファーマイン隊長とジーグ隊員を、大統領官邸へ呼んでください」
「了解しました」
ワイアードは、この大統領の部屋にある電話で統合本部に連絡するが、セシルはすでに特機隊の基地に帰っている。
彼はすぐさま、特機隊の基地にかけ直した。
ユードルトにある特機隊の基地で、通信隊員のイレーナがセシルに伝える。
「隊長、ロディオン司令官から連絡です」
リナの話に耳をかたむけていたセシルは、その通信に出る。
「ファーマインだ」
「大統領が、おまえとジーグに官邸まで来いといっている。大至急だ」
「あのメダルは、なんなのだ?」
「急いでくれ」
セシルの問いかけに答えることなく、通信は切れた。
腑に落ちない想いが顔に出る彼女は、リナにふり向いて告げる。
「ジーグ」
「はい」
「わたしと二人で、大統領官邸に行くぞ」
その言葉に、リナは絶句する。
──だ、大統領官邸?
まさか、あのメダルがここまで事態を大きくするなど、夢にも思わなかった。
二人は、セシルの運転する車両で大統領官邸に急ぐのだった。
大統領官邸に到着したセシルとリナは、警備員にレズリー大統領たちがいる部屋に案内される。第二会議室だ。
「失礼します」
そこにはレズリーの他、アルオーズ官房長官とワイアードが円卓に座っている。
セシルとリナは空いている席に腰を下ろした。
直後に、レズリーがリナに例のメダルを見せながら問いかける。
「ジーグ隊員、あなたがこのメダルを手に入れた状況を、くわしく話してくれませんか」
「はい」
リナはそのときの詳細を、レズリーに語りはじめる。
「このメダルは自分を証明するものだと、あの人はいっていました」
レズリーの目に、涙が浮かぶ。それを見たセシルは思った。
──大統領は、あの男を知っている?
リナは話を続ける。
「それから、わたしに借りがあると話したのですが、まったく身に覚えがありません。いったい、なんのことか……」
ワイアードが話の途中で割り込んだ。
「ウルトラシークレットのことだろう」
セシルが眉をよせる。
「ウルトラシークレット? なぜ、それが関わってくる」
「ダーモスの暗殺だよ。彼の父親は、ダーモスに殺されたんだ。どこで彼の耳に入ったのかは、わからんがな」
セシルもリナも、頭が混乱する。




