◇ 気になるメダル
リナは自分の通信機を手にすると、着信の呼び出しに応えた。
「ジーグです」
相手は、隊長のセシルだ。
「わたしだ」
セシルからの呼び出しに、緊急事態が発生したと思った。
「いま、ヤツがあらわれただろう」
その緊急事態は、自分たちのことだった。
ノーティスが来たことが、なぜセシルにわかったのか。驚いているリナに、本人が説明する。
「このまえ、おまえがラブロスの花屋でヤツに会ったといっていたので、監視カメラを設置したんだ」
リナがまわりを見渡す。花屋の対面、上方に監視カメラがあるのが確認できる。
セシルがリナに訊く。
「あいつと、なにを話していたんだ?」
リナは、困惑した顔になる。
「わたしに渡すものがあるといって、メダルのようなものを受け取ったのですが」
彼女はそういうと、そのメダルを監視カメラに向けるのだった。
「隊長、見えますか?」
「よくわからないな」
「これは、あの人のことを証明するものだと、あの人自身が話していました」
そんなものを、ノーティスはなぜリナに渡すのか。セシルもわけがわからない。ただ、爆弾の類いではなさそうだ。
「隊長、あの人はわたしに借りがあると話していました。全然、身に覚えがないのですが」
ここまでリナの話をきいたセシルは、彼女たちに指示を出す。
「ジーグ、おまえたちは基地へもどれ。こっちでくわしい話をききたい」
「了解」
リナとローヌは命令にしたがい、ユードルトにある特別機動部隊の基地へ帰ってゆくのだった。
特機隊の基地に帰還したリナたちは、指令室に入る。
セシルがリナに声をかけた。
「来たか。ヤツから渡されたものとは、なんだ?」
「これです」
リナは、ノーティスから受け取った金色のメダルを右手の掌にのせて、セシルに見せる。
──これは……
模様が入っている。以前、どこかで見たような気がする。
セシルは、リナがノーティスに会ってからの詳細をきくと、リナが持っているメダルを手に取った。
「本部に行ってくる」
その言葉に、リナがびっくりする。指令室にいる参謀のアストン・ワグナーも驚いて声を出した。
「いまからですか?」
「そうだ。司令官なら、これがなにか知っているかもしれない」
不思議に思うリナは、セシルに尋ねた。
「それほど重要なものなんですか?」
訊かれたセシルは、黙ったままメダルをじっと見る。しばらくして、口をひらいた。
「わたしにもわからないが、非常に大事なものであるような気がするのだ。とにかく行ってくる。ワグナー、あとは頼んだ」
「了解です」
留守をアストンに任せると、セシルは統合本部に急ぐのだった。
自分で車両を運転するセシルは、リナがノーティスから受け取ったというメダルがずっと気にかかる。
統合本部に到着すると、まっすぐ指令室に足を進める。
指令室に入るなり、司令官のワイアード・ロディオンにメダルを見せた。
「これを見てくれ」
ワイアードは、セシルから事前に「見せたい物がある」ときいていたが、それがこのメダルだとは思わなかった。
だが──
「これは?」
「ジーグが、シグマッハの幹部から受け取ったらしい。この模様は、どこかで見たような……」
セシルが話している途中で、ワイアードの顔が驚愕した表情に変わる。
彼は焦ったようにセシルからメダルを取ると、あわてふためいた感じで口をひらいた。
「大統領のところへ行ってくる」
指令室のみんなが唖然となった。セシルは、そのメダルが重要なものである気はしたのだが、まさか大統領まで絡んでくるとは思わなかった。
セシルもびっくりしたが、それ以上に驚いたのがディアン・ネルソン司令次官だ。大統領から呼び出しがあったわけでもないのに、司令官自ら大統領官邸へ出向くのは、よほどの事があった場合しか考えられない。
呆然となっている彼に、ワイアードは告げる。
「ネルソン、あとは頼んだぞ。行ってくる」
ワイアードが指令室を去ると、セシルとディアンは顔を見合せるのだった。




