◇ アルオーズの驚嘆
アルオーズとともにいるシグマッハの兵隊二人は、爆発した装甲車の方をふり向いた。
レミーたちは、その隙を見逃さない。兵隊との距離を一気につめると、彼らの股間を蹴りあげる。前かがみになったその顔面に膝蹴りを入れ、銃を持っている腕にすばやく関節技を決める。
白衣姿でレミーとともに戦う彼女は、メディカルチームの隊員ではなく、特機隊の戦闘員ミランダ・ルゼだ。
彼女は小柄だが接近戦を得意とし、武器を持たなくても十分すぎるほど強い。
腕の骨をボキッと折られて悶絶する兵隊に、レミーたちは彼らが手放した銃で容赦なくトドメを刺す。
彼女たちが戦っている間に、アルオーズの身体が一瞬でホバーランサーのある場所に移動する。
まったく予想していなかった事態に、アルオーズは呆然となった。白衣を着たメガネの女性が、彼といっしょにいる。
「き、君は……」
その女性は、かけていたメガネをはずす。そして後ろに束ねていた髪をほどいた。
メディカルチームの隊員に扮したセシルだ。装甲車を破壊したのも、彼女である。
アルオーズを抑えていた兵隊が、装甲車に乗っている仲間との通信が終わる瞬間、彼女はテレポーテーションで装甲車に接近すると、車両の窓から手榴弾を投げ入れたのだ。
そして素早くアルオーズのもとへもどり、ふたたびレイズを発動して、彼を連れてホバーランサーまで飛んだのである。
セシルの目が、電子ロックの手錠がかけられているアルオーズの両手に注がれる。
「手錠のロックを解除しなければ」
ホバーランサーにある解除装置をもってこようとするセシルを、アルオーズが呼び止めた。
「大丈夫だ」
手錠がピピピッと音を発すると、瞬く間にロックが解除され、手錠は地面にガシャッと落ちた。
セシルは目を見張る。そんな彼女に、アルオーズは伝える。
「わたしのレイズなら、この程度のロックは解除できるのだよ」
しかし、彼には戦闘能力がない。シグマッハに捕らえられている間、自由な身体になることはできても、そこから脱出するのは彼には不可能だった。
セシルはアルオーズに声をかける。
「乗ってください」
アルオーズは、素直にホバーランサーに乗り込んだ。
レミーもミランダもホバーランサーに乗ると、セシルは通信機で統合本部に連絡する。
「任務完了、官房長官をぶじに保護した。少し疲れているようだが、本人によると怪我はしていないという。これより帰還する」
通信が終わると、レミーの運転で彼らは統合本部を目指す。
セシルの横に座るアルオーズが、彼女に問いかける。
「なぜ、わたしを助けに来た?」
セシルのことをあまり好きではないアルオーズは、彼女も自分をきらっていると思っている。無意識に、皮肉めいた口調になる。
「わたしより特別機動部隊の副隊長の方が、存在価値があるだろう」
セシルは率直に答えた。
「大統領命令です」
大統領の命令であれば、確かに彼女でも助けに来るだろう。アルオーズは、ため息をついた。
「わたしは、独り身でね」
彼は、自分のことをポツポツと語りだす。
「妻も娘も、そして孫も、旅行中に事故に遇い、わたしは自分の家族を失ったんだ」
知っている。彼女はワイアードからきいたことがある。
「わたしが死んだところで、悲しむ者は誰もおらんよ」
セシルが彼に向かって口をひらいた。
「あなたが死ぬと」
彼女の言葉は、青天の霹靂というほどのショックをアルオーズに与えるのだった。
「わが部隊のジーグが悲しみます」
アルオーズは心臓が止まりそうになった。そう思うほど驚嘆し、大きく見開かれた彼の目がセシルを凝視する。その視線は、彼女に釘付けになったまま離れない。
セシルが、彼の心情を悟ったようにいう。
「わたしが知らないとでも?」
絶対に知らないと思った。
アルオーズは官房長官の立場を利用してセシルの予定を調べあげ、彼女が基地にいなくてリナがいる日を入念にチェックしていた。基地に行ったときには本名は名のらず、ジーグの一族に存在する名前を使ってリナに会いに行っていたのだ。




