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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ジーグとオズマ
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◇ 遂行隊員

 リナは、一見するとヘアバンドに見えるヘッドギアを装着している。


 そんな彼女を、男はまじまじと見ながら不意に問いかけた。


「君たちは、ラムドの兵士っていったよね。偵察要員かな?」

「いえ、偵察……というのでは……」


 リナは言葉を濁すと、彼に尋ねる。


「あの、お名前を教えてください」

「ああ、俺はドノヴァン」

「ドノヴァンさん、ですか?」

「うん」


 ドノヴァンというのは、ファーストネームだ。リナやレミーの名前もそうだ。一般にはそっちの名で呼ぶのがふつうである。

 しかし軍の隊員においては、特に任務を遂行する場合では、下の名で呼ぶ決まりがある。これは、シグマッハも同じである。


 レミーが二人の会話に割って入る。


「すまないが、もう少し見てまわらなければならないところがあるんだ」


 彼女の言葉に、ドノヴァンはうなずいた。


「ああ、俺のことは気にせず、そっちの仕事をやればいいよ。別に怪我をしているわけじゃないし、急がないからね」


 レミーとリナは、まだ確認していない場所に足をのばす。その間、ドノヴァンが暇をつぶすように、リナを相手に話をするのだった。


「兵士っていってたけど、かなり若いよね。いま、いくつ?」

「十七です」

「十七!」


 この星に生きる人間は、寿命が百二十歳を余裕で超える。二十歳から五十歳を超えるまで、見た目はずっと二十代であるのが特徴だ。


 ちなみにドノヴァンは現在二十七歳であり、レミーは三十六歳だ。隊長のセシルは三十八歳になる。彼女たちは、隊長ならびに副隊長としては異様に若い。


 見た目は二十代でも、この星に住む人々は、個々の実年齢をだいたい把握できるのだ。


 ただ、十代で戦場へ駆り出されることは、まずない。そもそも、ラムド軍は未成年者である二十歳未満の人間の入隊を禁止している。


「マジで? 子どもを兵士にしなきゃならないほど、ラムドの兵士は不足しているの?」

「いえ、そうではないのですが……」


 これ以上は話せない。彼女は、どうにかして話題を変えようとする。


「ドノヴァンさんは、ここへ来るまえは、どちらに」

「ナルバンにいたよ」


 ラムド軍の先進部隊と遊撃部隊で構成した進撃隊が、全滅した戦地だ。レミーはドノヴァンに視線を向ける。


 ──よく生きのびたな


 ラムドの部隊がナルバンに到着するまえに、すでにナルバンの市民がいたるところで虐殺され、その数は少なくなかった。


 ドノヴァンはそういう殺戮(さつりく)現場を目の当たりにしていると思うのだが、飄々(ひょうひょう)としている彼の態度は、どことなく違和感を覚える。



 町並みをひととおりチェックしたレミーは、ポツリと声に出した。


「誰もいないな」


 リナがそれに応える。


「いませんね。良かった、ここの住民は一人も犠牲になっていません」


 町の人々はシグマッハが来るまえに、ぶじに避難を完了しているようだ。リナの顔に、ホッとした想いが浮かぶ。


「遅かったかもしれないと思いましたが、間に合いました」

「うん。あとは、シグマッハが情報どおりにここへ来るかどうかだ」


 そこへ、ドノヴァンが口をはさんでくる。


「情報って、なんの情報?」


 レミーがドノヴァンの方をふり向く。


「一般人には関係のないことだ。知らない方がいい」


 相手にしない感じで、そういった。彼女はリナに告げる。


「この人をヤーパスまで送っていこう」

「はい」


 レミーは通信機のスイッチを入れると、チャンネルをベルムングの街にある指令室に合わせてつないだ。特機隊は本部からその街まで移動しており、急ごしらえで簡易な指令室を作っている。


「こちら、ターレル地区のモルダン。指令室、応答ねがいます」

「こちら指令室です、どうぞ」

「一般人をひとり発見。ほかは誰もいない。とりあえず、この一般人をヤーパスへ連れて行く」


 そこまで伝えると、指令室の通信相手が変わる気配がした。


「ファーマインだ。敵は、まだ来てないか?」

「まだ来ていません、隊長」

「わかった。一般人をヤーパスへ送りとどけてくれ」

「了解」


 隊長のセシル・ファーマインとしばらく会話を続けたあと、ふたたび通信相手が変わる。


「モルダン副隊長、すみません。規則ですので、作戦部隊名と遂行隊員の名前をお願いします」

「ああ、わかった。ターレル地区先攻作戦隊、レミー・モルダンと……」


 次に続くレミーの言葉に、ドノヴァンの目が点になる。


「リナ・ジーグ」


 ドノヴァンは、思わずリナの方をふり向いた。


「ジーグ?」



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