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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ 誘拐計画
47/91

◇ 犯行声明

 ボルグは話を続ける。


「官房長官は、きのうも議事堂で仕事をしていたようだ。帰り際に警備員と言葉を交わし、バス停まで歩いて行き、ルートバスに乗っていることがわかっている」


 オルトナが、説明をつけ加える。


「市街カメラで確認しています。ご覧ください」


 彼はキーボードを操作して、レズリー大統領の正面にある大画面のモニタースクリーンに映像を出力する。


 アルオーズが、敷地内への入口となる門を出るところが映っている。警備員となにか話している。


 セシルは思った。


 ──ジーグに会いに来たときの格好だ


 ただ、メガネをかけていないアルオーズの顔はいつもどおり気難しい感じで、リナと話しているときの彼とはまるで別人のようだ。


 やがてアルオーズは、門を出て左へ歩き出した。セシルたちから見れば、右方向である。


 映像が切り替わる。カメラはバス停を映している。ルートバスを待っている三人のなかに、アルオーズが確認できる。彼はバスに乗り込んだ。


 オルトナがみんなに伝える。


「カメラで確認できるのは、ここまでです」


 セシルが彼に尋ねた。


「バスから降りたところは確認できないのか?」

「カメラが設置されていないので、確認できません」


 それをきいたセシルは、ふと思ったことが声に出る。


「官房長官の自宅の防犯カメラには、なにも映っていないのだろうか?」


 オルトナが、セシルの言葉に反応する。


「それなんですが」


 彼はふたたびキーボードを操作する。大画面のスクリーンに映るのは、官房長官の自宅に設置されている防犯カメラがとらえた映像だ。


 自宅の前の道路をルートバスが通り過ぎる。しばらくして、一台の黒い車が同じ方向へ走ってゆく。


 ここで、ボルグが口をひらいた。


「この時間は、官房長官がルートバスから降りる時間に、非常に近い」


 先ほどのバスに、アルオーズが乗っていたのだ。


 ワイアードがボルグに問いかける。


「バスのあとに走った車が、なにか見たんじゃないか?」

「その車なんだが」


 ボルグの顔つきが、険しい表情に変わる。


「ラムド政府が登録許可を与えていない車であることが、わかった」


 ワイアードが眉をよせる。


「では、あの車は……」

「官房長官を拐った車だと思う」


 しばらくの沈黙のあと、セシルがボルグに訊いてみる。


「わたしは官房長官の誘拐を司令官からきいてはじめて知ったのだが、情報局はどうやって誘拐に気づいたのだ?」


 彼は答える。


「今朝、シグマッハから犯行声明があったのだよ」

「犯行声明?」

「そうだ」


 オルトナがキーボードを操作し、その通信を会議室のスピーカーにつなぐ。


「これです」


 部屋のスピーカーから、低い声が響いてくる。


「ラムド政府に告ぐ。われわれはシグマッハだ。アルオーズ官房長官を誘拐した。彼を殺されたくなければ、こちらのいうとおりにしろ」


 ワイアードにすれば、虫酸(むしず)が走るようなやり方だ。彼はその想いを顔に出しながら、オルトナにふり向く。


「シグマッハの要求は?」

「まだ、ありません」


 いままで黙っていたレズリーが、声をあげた。


「官房長官の位置は、わからないのですか? 彼はモバイル通信器を持っているので、位置情報が確認できるはずでしょう」


 ボルグが彼女に答える。


「そのモバイル通信器を破壊されたようで、位置情報を取得できません」

「官房長官を乗せた車を追うことは、できないのですか?」

「いま、情報局であらゆるカメラの映像を確認、解析している最中ですが」


 彼の顔にあらわれるのは、絶望的な心情だ。


「どこにいるかは、かいもく見当がつきません。車を替えている可能性も考えられます」


 そのとおりだった。アルオーズを誘拐した彼らは、四人乗りの工事用ダンプに乗り替え、自分たちはもとより眠っているアルオーズにもヘルメットをかぶらせて、ラムドの領域を出ようとしている。けっしてスピードは出さない。


 レズリーは、がっくりとうつむく頭を左手でささえる。


 救出部隊をそろえたところで動きようがない。シグマッハから要求がくるまでなにもできず、アルオーズがどこにいるかもわからないため、奪還作戦を立てることもできない。


 すべては、シグマッハがいかなる要求をしてくるか。それからである。



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