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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ 誘拐計画
44/91

◇ 同一人物

 リナといっしょにいる紳士は、レイズを使えるかどうかはわからないが、どう見ても庶民だ。


 セシルは、庶民に知り合いはいない。彼女と交流があるのは、軍の関係者と政府の人間ぐらいなものだ。

 そんな彼女は、庶民の紳士に会った記憶がなくて当然といえる。


 このことをワイアードに告げようと彼の方をふり向いたとき、ワイアードが先に口をひらいた。


「まだ、わからないか?」


 セシルは、ワイアードは誰かと勘違いしていると思った。彼は続けて話す。


「まあ、あの人のあんな顔は、ふだんは見られないからな。思い出すのに時間がかかっても、無理はない」


 その言葉に、セシルはふたたび紳士の方に顔を向ける。よく見ると、誰かの面影があるように感じる。


 ──ひょっとして、あの紳士は庶民ではないのでは?


 会った記憶がないのであれば、当然そういうことになる。


 ──ふだん見ない顔。それなら、ふだんは……っ!


 記憶の海に潜り続けていたセシルは、ある人物にたどり着いた。


「ま、まさか」


 ワイアードがニヤニヤしながら、愕然となった彼女に声をかける。


「思い出したか?」


 とても信じられない。リナと話している紳士の印象が、自分の知っている彼とはまったくちがうのだ。


 セシルの口から、その人物の名前が漏れるように出てくる。


「アルオーズ官房長官……」


 ワイアードは微笑みながら、彼女に語る。


「もう、わかるだろ。あの人がジーグの処刑を望んでいることは、絶対にないんだよ」


 アルオーズの、どこまでも優しそうな笑顔。いまの彼を見るかぎり、確かにそう思う。

 まだ呆然としているセシルに、ワイアードは言葉をかける。


「本部に帰ろう」


 二人は、アルオーズとリナが自分たちに気づくまえに、本部に帰って行くのだった。




 本部に向かう車の中で、セシルがワイアードに訊いてみる。


「官房長官は、なぜわたしがいないときに限って基地に来るんだ?」


 ワイアードは、あきれたようにいった。


「おまえが、あの人をきらっているからだよ」


 セシルはムッとするが、ワイアードのいうことは正しいと思える。


 今日にしても、アルオーズはセシルが統合本部に行くという情報をつかみ、それで彼はリナに会いに行ったのだ。その情報は、ワイアードが意図して流したことはいうまでもない。


 セシルは、気になることがいくつかある。


「官房長官とジーグは、どういう関係があるのだろう?」

「さあな。わたしにもわからないが、ただ……」


 あまり人に話すことではないと思いつつ、ワイアードは語る。


「官房長官は、お孫さんを亡くしている。女の子だそうだ」


 セシルは絶句する。アルオーズにそんな過去があったとは、まったく知らなかった。


「そのお孫さんとジーグを、重ねて見ているのかもしれない」


 おそらくそうだろうとセシルは思う。ワイアードは言葉を続ける。


「亡くなったのは、孫娘だけじゃないんだ。官房長官の仕事中に、旅行に行っていた婦人も娘夫婦も、事故で命を落としたんだ。あの人は、家族のすべてを失ったんだよ」

「では、官房長官はいま、独りなのか?」

「そうだ」


 少なくとも結婚はしているだろうから、婦人だけはいるはずだと思っていたセシルである。


 ワイアードが寂しさをたたえた目を彼女に向ける。


「おまえも、あまり官房長官をきらうんじゃないぞ」


 セシルは眉をよせ、神妙な顔になる。


 ──そんな話をきいたあとでは、憎むに憎めないではないか


 彼女はやれやれと思いながら、ため息をついた。

 そして、別の疑問をワイアードに投げた。


「裁断会議のとき、あの人は大統領に食ってかかっていただろう。なぜだ?」

「そういう人も必要なんだよ。ウルトラシークレットは、けっして軽いものではないからな」


 本当なら、リナもセシルも死刑になりかねないほどのことなのだ。


「まあ、大統領の性格をよく知っている彼だからこそ、ああいうことができるのだろう。大統領も一度きめたことは、なかなか(くつがえ)さないからな」


 セシルは、ふたたびため息をつくのだった。


 ──まったく、ややこしい人だ




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