◇ 裁断会議
大統領のレズリーは、厳かな口調でいった。
「ゆゆしき事態となったのを遺憾に思うのは確かです。この問題について、われわれは慎重に考えなければなりません。まず、誰に責任があるのか」
彼女は断言する。
「最初の会議で、わたしはいっています。すべての責任は、わたしにあると」
レズリー大統領の言葉に、みんなは唖然となった。
「いま、リナ・ジーグ隊員を失うわけにはいきません。彼女は、わが国の未来を左右するほどの戦力です」
セシルは、どうやって大統領を説得するか必死に考えていたのだが、レズリーは思った以上に、リナに対する理解があった。
「リナ・ジーグ隊員については、不問とします」
アルオーズが立ち上がった。
「大統領!」
憤る彼は、食ってかかるようにレズリーに向かって口をひらいた。
「ウルトラシークレットですぞっ。そういう前列を作ってしまうと、今後どうなるか……」
レズリーは、彼の言葉をさえぎる。
「さっきもいったように、すべての責任はわたしにあるのです。責任を問うのであれば、それはジーグ隊員でもロディオン司令官そしてファーマイン隊長でもなく、わたしなのですよ」
まだなにかいいたそうなアルオーズに、ワイアードが言葉をかける。
「ウルトラシークレットの内容を知っているのは、まだファーマインの部隊だけです。オズマの知るところとなったのは事実ですが、それほど心配はいらないと考えます」
納得できないボルグは、怪訝な想いが顔に、そして声にもあらわれる。
「なぜだね。民衆に知れわたると、一大事だぞ!」
ボルグの疑問に、ワイアードは冷静な声で答えた。
「たとえ民衆にウルトラシークレットが知れわたったとしても、十歳の子どもが大統領を殺害したなどと、誰が信じますか?」
ボルグは沈黙を余儀なくされる。アルオーズも言葉を返せない。
ここで、レズリーが締めくくる。
「裁断会議は、これで終了です。では、解散」
ワイアードとセシルはその言葉をきくなり、さっさと会議室を出る。アルオーズとボルグが、まだ大統領にぶつぶつ文句をいうかもしれないが、もはや知ったことではない。
大統領官邸を辞し、軍専用車両に乗った二人は、統合本部へと帰るのだった。
車を運転するのは、ワイアードだ。
本部へ帰る道すがら、二人の会話がはじまる。ぶじに会議が終わったことに、ワイアードはホッと表情をゆるめながらいった。
「よかったな。ジーグは無罪で、おまえも責任を問われなくて済んだ」
セシルは、ブスッとしながら彼に返した。
「わたしは、あの気難しい顔をした官房長官が好きにはなれん」
ワイアードは、ニヤニヤと微笑む。それを見たセシルは怪訝に思う。
「なにがおかしい?」
ワイアードはニヤついたまま、チラッとセシルに目を向けた。
「おまえは、本当にアルオーズ官房長官が、ジーグの処刑を望んでいると思っているのか?」
予期せぬ言葉に、セシルは絶句する。
「あの人は、絶対にそんなことは考えないよ。ファーマイン」
まるでワイアードとアルオーズの二人は親友であるかのような口ぶりに、セシルは変な感じを受ける。
彼らの間に、それほどの付き合いがあるとは思えない。また、そういう噂もまったくきいたことがない。
──だとすると、裁断会議での官房長官の態度は、演技だったというのか?
しかし、なぜそんなことをするのか理由がわからない。
腑に落ちない顔をしているセシルに、ワイアードはいった。
「まあ、いつかはおまえにも、わかる日がくるだろう」
本当にその日がくるというなら、何年も遠い先のことだろうとセシルは思った。




