◇ 理解者
セシルには、なんだかんだいっても自分を庇護してくれる大きな存在があった。
それは、彼女がもっともきらっていたワイアードだ。
ある日、彼女とワイアードが本部の通路で、ばったりと出くわした。
「ファーマイン」
「なんだ」
「おまえの評判は良くないぞ。批判的な態度をとるのは、わたしのときだけにしておけ」
「知ったことか」
こんな感じである。ふつうなら、絶対にゆるされることではない。軍法会議で裁判にかけられ、処罰されるところだ。
ワイアードはため息をつくと、あらたまった表情になる。
「本当なら、伝えるのは、まだはやいのだが」
真剣な顔で、セシルと向き合う。
「いま、いっておこう。おまえに人事異動が発令される」
セシルは眉をよせる。
──わたしが鬱陶しいので、離れたところへ飛ばすのか
胸が悪くなる。
──いっそ、除隊にすればどうだ!
それはできない。ウルトラシークレットに関わる人間を除隊して野放しにすると、超極秘情報が庶民にまで知れ渡り、大変なことになる恐れがある。
いまのセシルは、そこまで頭がまわらない。次に語るワイアードの言葉は、そんな彼女を唖然とさせるのだった。
「おまえを、特別機動部隊の隊長に任命する」
まさかの発言に、セシルは目が点になる。間違っても、昇進するとは夢にも思っていなかった彼女だ。しかも、いきなり隊長である。
──な、なぜ、わたしが?
ワイアードは、セシルの隊長としての資質を見抜いていた。
「誰にも文句をいわせたくなければ、部隊の隊長として実績をつくれ」
「………」
「ほしい人材がいるなら、わたしにいってこい。ただし、確保できるかどうかは保証できないがな」
そしてセシルは、正式に特別機動部隊の隊長となる。さらに、レミー・モルダンとティナ・フォーゼリエを仲間にするために、彼女たちを政府情報局ならびに政府医療センターから己の部隊にひき抜いたのだった。
以来、彼女はワイアードの期待どおりに、特機隊の隊長として活躍している。
セシルには、強力な理解者がいた。しかし、ドノヴァンには理解者はいても、彼をシグマッハに止まらせる力も説得力もないのではないか。
──わたしは、恵まれているのだろうな
セシルはそう思うと、ドノヴァンから目を離して部隊のみんなの方をふり向いた。
テレポーテーションでそこまで飛ぶと、全員に告げる。
「これより帰還する。ウルトラシークレットのことは、われわれだけの秘密だ。絶対に外部に漏らすなっ」
さらに釘をさす。
「部外者に話した者は、死刑になると思え!」
死刑という響きに隊員たちは表情を固くしながら「了解っ」というと、車両の方へ急いでゆく。裸の集団が装甲車やトラックに乗り込もうとするさまは、実に異様な光景だ。
ともあれ、今回の戦闘で車両が被害を受けずにぶじだったのは、幸いだった。
セシルは、倒れているリナの方へ歩みよる。そして、メディカルチームの彼女たちに言葉をかけた。
「ジーグは大丈夫か?」
ティナが答える。
「どうにか、もちこたえそうね。でも、急いだ方がいいわ」
「わかった。行こう」
彼女たちは、気を失っているリナといっしょにホバーランサーに乗ると、最速で基地に帰って行くのだった。
誰もいなくなったこの地に、ノーティスが姿をあらわす。
「そうだったのか」
姿を消したままセシルの話をきいていた彼自身も、抱えていた謎が解けた。空を見上げて、父親に想いをよせる。
「父さん」
殺された父親の仇を討ってくれたのは……。
「リナちゃんに借りができたな」
真実がわかった以上、もうシグマッハに用はない。だが、ドノヴァンと同じくラムドに与することもできない。
「仕方ないな」
彼はそう思いながら、シグマッハの本拠地に足を向けて帰ってゆくのだった。




