◇ 始末
マリーが議員たちに伝える。
「ボルグ長官がいうには、いろいろな情報を分析した結果、次期大統領にはレズリー議員がもっともふさわしいということです」
ワイアードが後押しする。
「わたしも、その意見に賛成です。一般人に理解があるレズリー議員が大統領になれば、彼らによる暴動の心配は極力抑えられると思います」
議員のなかには反論する者もいる。
だが、ワイアードは有無をいわせない。
「あなた方、議員の命が狙われる可能性も低くなるでしょう」
このひと言は、かなり効いた。結局、満場一致でレズリーが次期大統領に決定する。
そして、レズリーの秘書だったアルオーズは官房長官となり、ワイアードはラムド政府軍の最高幹部である統合本部司令官に昇進するのだった。
セシルはドノヴァンに教える。
「レズリー大統領は、おまえが思っているよりもはるかにしたたかで、抜け目のない女だぞ」
「………」
ドノヴァンが呆然となっていると、彼の後方からキラッとなにかが光った。
銃撃である。シグマッハの攻撃だ。だが、狙撃手が標的にしているのはセシルたちラムドの隊員ではなく、味方の部隊を殲滅したドノヴァンだった。
ビーム弾がドノヴァンをとらえようとする。
しかし──
ビシッ
そのビーム弾はドノヴァンに命中することなく、まるで叩き落とされたように彼の足下に突き刺さった。
ドノヴァン自身をガードする重力のレイズにより、軌道を曲げられて地面に落とされたのだ。
ドノヴァンが後ろをふり向く。付近に人の気配はない。自分がシグマッハの部隊を壊滅したので、当然だ。
レミーが己の能力を発揮する。
「隊長」
「なんだ」
「オズマの後方、二百メートルほど離れたところにある建物に、誰かいます。武器をもってますね。ビームライフルです」
レミーの言葉をきいたセシルは、ドノヴァンの方に顔を向ける。
「そいつを始末するなら、力を貸してやるぞ」
ドノヴァンは眉をよせるが、セシルは気にせずにいった。
「わたしなら、あそこまで一気に飛べるが、どうする?」
そういう間にも、二発目のビーム弾がドノヴァンを襲う。しかし、結果は同じだ。
彼のレイズは凄絶だが、あの場所までは遠すぎる。だが、自分を狙った輩をこのまま放っておこうとは思わない。
「わかった」
ドノヴァンは了解した。
セシルが彼に近づき、身をよせる。ドノヴァンの表情が固くなる。
その顔を見たセシルは思った。
──本当に、女に免疫がなさそうだ
彼女は彼にいった。
「しっかり抱きしめて。ほら、手をここに」
身体を密着させたセシルは右手でドノヴァンの手をつかみ、自分の腰にまわす。彼の心臓の鼓動が、はやくなるのを感じる。
ラムドの部隊をさんざん苦しめてきたシグマッハの悪魔が、いまは他愛もない赤子のように思える。
いじめたくなってくる感情がふつふつと湧いてくるが、とにかく狙撃手のいる建物の横、五メートルほど離れた場所にテレポートする。
建物は、四階建ての古い廃墟ビルだ。その中にいる狙撃手は、いきなりドノヴァンの姿が消えたので頭が混乱していた。
セシルがドノヴァンに問いかける。
「どうする。このビルを潰すのか?」
「いや、中を燃やす。下がってろ」
ドノヴァンはそういうと、炎のレイズを発動する。ビルの内部が急に高温になり、瞬く間に各部屋が発火する。
ビル内にはシグマッハの兵隊が三人いたようで、彼らの叫び声がとどろく。だが、数秒と経たないうちにその声はきこえなくなり、廃墟ビル全体が炎に包まれた。
セシルの額から汗が滴る。
──レイズの威力が、桁ちがいだ
これほどの能力を駆使すれば、ふらふらになるぐらい疲れるのがふつうだ。しかし、ドノヴァンは疲れるどころか平然として余裕を感じさせる。
──レイズの底が知れない
セシルは額の冷や汗をぬぐいながら、そう思うのだった。




