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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ウルトラシークレット
36/91

◇ パーフェクトプラン

 驚愕した二人の警備員は、ダーモスのそばへ駆け寄った。


「大統領、大丈夫ですかっ」

「大統領、しっかりしてください、大統領!」


 部屋の中に入ってきた彼らと入れ替わるように、リナが部屋の外に出る。とたんに光学迷彩が解除されるが、これは想定内だ。

 通路を走るリナは、屋上へ続く階段の方へ急ぐのだった。




 監視制御室では、二人の警備員が不安そうな顔をボルグに向けている。なるほど、九つあるモニターの映像はすべて真っ白で、監視カメラがまったく機能していない。


 いま、屋上を目指して通路を走っているリナの姿は、官邸内に設置されたモニターに映っていない。計画どおりだ。


 ボルグは、驚いたような顔をして彼らに訊いてみる。


「カメラの故障か?」

「わかりません。急に映らなくなったのです」

「大変だな。官邸に爆弾はなかったので、われわれはこれで失礼するよ」

「はい、ご苦労様でした」


 監視制御室を辞したボルグは、部下たちにいった。


「忘れ物はないな。これから情報局に……」


 そのときだった。二階から、あわただしい声がする。なにやら騒がしい。


 ボルグたちは、不審な顔をして上を見あげる。


「行ってみよう」


 ボルグはそういうと、部下たちとともに、二階に上がった。


 大統領の部屋の前から動かないはずの警備員がいない。部屋の中から、彼らの叫ぶような声がきこえてくる。


 ボルグがドアを開ける。


「どうした。なにが……」


 警備員二人が、青白い顔をボルグに向ける。彼らにはさまれるように、ダーモスがうつぶせに倒れている。


 ボルグは「大統領っ!」と声をあげながら、そばまで近寄る。ダーモスの後頭部には、焦げたような跡がある。ボルグはダーモスの首に右手の指をあてて、脈を確かめた。


「ダメだ。死んでいる」


 彼は、不安におののいている警備員たちに問いかけた。


「いったい、なにがあったのだ」

「わかりません。大統領が部屋に入るとすぐに、なにかが倒れた音がして……」


 ボルグは深刻な表情をつくると、彼らに指示を出す。


「何者かに襲われた可能性がある。屋上の警備員に、官邸周辺に不審者がいないか、すぐに調べるよう連絡するんだ。急げ!」

「は、はい」

「絶対に見逃すなっ」


 その警備員が屋上にいる仲間に通信機で連絡する。屋上の彼らは、すぐさま官邸付近に不審者がいないか、銃を構えながら上から見下ろす。


 そのとき、階段を上がってきたリナが屋上のドアを開ける。だが、リナに気づく者は、誰もいない。




 セシルは、双眼鏡で官邸の屋上を見ている。


「上がってきたな」


 彼女は、大統領官邸から離れた建物から、官邸の屋上にリナがあらわれるのを待っていた。


 ここまでの話をドノヴァンに語っていたセシルは、不意に彼に問いかける。


「おまえがシグマッハの幹部なら、わたしのレイズを知っているだろう」


 それはドノヴァンに限らない。シグマッハのみんなが知っていることだ。彼らにとって、セシル・ファーマインは第一級の危険人物である。


 ──テレポーテーション……


 セシルのレイズは瞬間移動だ。ただし、視界に入らない場所に移動することはできず、また遮蔽物があると、それを越えることはできない。


 リナを確認したセシルは、官邸の屋上へ飛んだ。一瞬で、リナのそばにくる。

 屋上にいる警備員たちの視線は下に注がれているため、彼らにはセシルの存在がわからない。


 セシルはリナに訊いた。


「やったか?」


 リナは無言でうなずいた。


 セシルは微笑む。


「いい子だ」


 そして、リナを抱きしめた。


「飛ぶぞ」


 誰にも気づかれることなく、リナといっしょにもとの場合へもどる。


 完璧な作戦だった。




 セシルはドノヴァンに語る。


「これが、ダーモス・コーネン元大統領暗殺の真実だ」


 その事実に声も出せないドノヴァンに、セシルは苦い顔をして告げるのだった。


「われながら思ったよ。外道の極みだっ、とな」


 子どもに大統領を殺害させることに最後まで抵抗があった彼女にすれば、思い出したくもない記憶である。




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