◇ ダーモス・コーネンの最期
脚立を携えたボルグは一階へ降りて、自分の部下と合流する。
「異常はないか?」
「はい、異常ありません」
それをきいたあと、近くにいる警備員たちの方にふり向いた。
「先ほど、ロディオン隊長から連絡があった。送電設備の変圧器が、なんらかの原因で爆発したらしい」
「変圧器?」
「爆弾を使った痕跡はないといっていた。すでに政府の生活庁電気課に連絡が入っているようで、送電ルートを切り替えるという話だ。隊長たちは、軍の本部に帰ったようだ」
実際は、ワイアードが時限爆弾で変圧器を爆発させたのだ。彼らは、その証拠を隠滅するために現場に向かったのである。
不意に、電灯が一瞬、まばたきするように消える。送電ルートが切り替わり、復電したのだ。
ボルグは安心したように話す。
「大統領を狙っての爆発ではないようだ。停電もなおったし、もう大丈夫だろう」
そのとき、監視制御室から警備員が一人、血相を変えて出てくる。
仲間の警備員が、彼に尋ねた。
「どうした?」
訊かれた彼は、青い顔をして答える。
「カメラのモニターが、ぜんぶ映らなくなった」
「なに?」
「ITV制御盤がアラームを出している。いまから見てくる」
そういうと、急いで電気室に入っていった。
原因は、ワイアードが取り替えたヒューズだ。停電し、そのあとに復電したときの突入電流が寿命間近のヒューズを焼き切ったのだ。
電気の専門家ではない警備員が、この障害はヒューズが切れたものだと究明するには時間がかかるだろう。
さらに、交換すべき予備のヒューズも、ワイアードが不良品と取り替えている。
これで官邸のカメラは、当分の間は役に立たない。
しばらくして、地下のシェルターに続く入口となるドアが開いた。中から、大統領に付き添っていた警備員が顔を出す。
「大統領が、部屋へもどるといっている」
ボルグが応じる。
「うむ、もう大丈夫だろう。停電は、たんなる事故らしい。爆弾ではなかったようだ」
それをきいた警備員は安心して地下に降りた。大統領を連れて二階へ上がってくると、ダーモスは、相変わらず不機嫌そうに顔を歪める。
「まったく、人騒がせな」
二階にある大統領の部屋へ、警備員らとともに向かうダーモスを見とどけたボルグは、自分の部下たちに告げる。
「われわれも帰るとしよう」
そして情報局に帰還することを伝えるため、監視制御室に入った。
二階に上がった大統領は、部屋のドアを開ける。
このとき、ドアの横にリナが立っているが、リナのアーマースーツは新開発の光学迷彩が機能している。だが、まだ開発途中といえる光学迷彩は、数分しかその性能を発揮できない。
二人の警備員は、部屋には入らない。通路にいる彼らは、部屋の入口の両側に、壁を背にして立っている。
ドアが閉まる。ダーモスはリナに気づくことなく、デスクに向かって歩いてゆく。
リナは、自分に背中を見せているダーモスに向けて、左手の掌を前に出した。
バリッ
「ぐっ!」
リナの左手から電撃が発射され、ダーモスの身体を束縛する。ダーモスは感電して身体がしびれ、動くことも声を出すこともできない。
さらに、リナはダーモスを狙い撃つように、右手の人差し指を後頭部に向けて照準を合わせた。
ズギュンッ
電磁エネルギー弾が、ダーモスの脳を破壊する。
ダブルレイズだ。リナは、相手を拘束する電磁波の電撃と、ビームライフルから発射されるような電磁エネルギー弾を扱うことができるのだ。
このエネルギー弾は、のちに相手を拘束する電磁波を伝って、とらえた全員をショック死させる電撃へと進化させてゆく。
リナは束縛のレイズを解放した。白目をむいたダーモスが、前のめりに倒れる。
ドシン、という音が響く。部屋の外にいる二人の警備員は、顔を見合せた。
「いま、中で音がしなかったか?」
「ああ。なにかが倒れたような音だ」
あわててドアをノックする。
「大統領、なにかあったのですか?」
返事はない。ふたたび、ドアをノックする。
「大統領、大丈夫ですか?」
なにも異常がないかのようにシーンと静まりかえった状態が、彼らに危機感をつのらせる。
「大統領、入りますよ。失礼します」
二人はドアを開けると、部屋の中に足をふみ入れた。
その瞬間、彼らの顔から一気に血の気がひいてゆく。
ダーモスが、うつぶせに倒れている。




