◇ 作戦遂行
リナは、防塵メガネをかけてペン型の小型呼吸器を口にくわえると、セシルが電磁カッターで開けた空調ダクトの穴から中に入る。
それを見とどけたセシルは、穴を開けたダクトの部分を、元どおりに修復する。
その間、ワイアードは監視カメラを制御するITV制御盤に細工をする。正常なヒューズを、いまにも切れそうなヒューズに交換するのだ。
制御盤の電源が落ちないように、ヒューズ挿入部分の両極端子をコードでつなぐ。そして正常なヒューズを抜いて、寿命間近のものに入れ替えた。
盤内にある予備のヒューズも、不良品に取り替える。
やるべきことを終えた二人は、電気室を出て、一階にある監視制御室に歩を進める。
途中でワイアードが口をひらいた。
「ここまでは順調だ」
問題は、ここからだ。監視制御室に入った彼らは、警備員たちに報告する。
「電気室に異常はなかったよ。いちばん危険な場所は、電気室だと思ったんだが……」
そのときだった。ズガーンという音が響くと同時に、部屋の明かり消え、非常灯が点灯する。
警備員たちに緊張が走る。
「いま、爆発音がきこえたぞ!」
すぐに自家発電機が起動する。
セシルがいった。
「爆発は官邸内ではなく、外だ。そんなに遠くではないな」
ワイアードの言葉が続く。
「われわれが見てこよう。行くぞ、ファーマイン」
セシルとワイアードの二人は、官邸の外に出るのだった。
二階を調べていたボルグとその部下は、官邸内が停電すると、すぐさま大統領の部屋に向かった。
部屋の前に貼りついている警備員の二人に、ボルグはいった。
「いま、爆発音がきこえただろう。外で、なにかが爆発したんだ。ひょっとしたら、官邸を狙っているのかもしれん」
警備員たちの表情が、険しくなる。
「念のため、大統領には地下のシェルターへ避難してもらった方がいい」
警備員の彼らは、了解した。すぐにドアをノックして、大統領がいる部屋に入る。
「失礼します」
ダーモスがその声をきくなり、不機嫌そうな顔でいった。
「爆弾はあったのか?」
ボルグが答える。
「官邸内には、ないもようです」
ダーモスは続けて問いかける。
「さっきの爆発音はなんだ」
「官邸の外で、なにかが爆発したようです。この建物を狙っているのかもしれません」
警備員がおそるおそるダーモスに進言する。
「大統領、念のために地下のシェルターへ移動した方が良いと思います」
警備員の二人は、ぶつぶつ文句をいう大統領に付き添いながら、地下のシェルターへ向かって行った。
ボルグは、自分のそばにいる部下たちに命令する。
「わたしは、この部屋をもう少し調べてみる。おまえたちは一階に降りて警備員と合流し、もしものときに大統領を守れるように、シェルターへの入口を警戒しろ。ああ、その脚立は、わたしがあずかろう」
二人の部下は「了解しました」といって脚立をボルグにあずけると、一階へ降りていった。
誰もいなくなった大統領の部屋で、ボルグは空調の通気口の型枠を取り外しにかかる。
通気口の下にくると脚立に乗り、型枠四隅のビスを工具でまわす。それが終わると、型枠を引っこ抜くようにガコッと取り外した。
すると、防塵メガネをかけて小型呼吸器を口にくわえたリナが、そこから顔をのぞかせる。
ボルグは、脚立をその位置からいくぶん遠ざけると、ふたたび足を乗せる。右手を伸ばしたリナのその手をつかみ、リナの身体を空調ダクトから引き出した。
脚立から落ちて怪我をすることもなく、ぶじにリナをフロアへ降ろす。そして、急いで通気口の型枠をもとどおりにはめ込んだ。
やるべきことが終わったボルグは、リナから防塵メガネと小型呼吸器を手渡されると、彼女の目を見ていった。
「頼んだぞ、リナ・ジーグ。君ならできる」
念押しのレイズを、リナに施す。
リナはなにもいわずに、こっくりとうなずいた。




