◇ 計画当日
憤るセシルを、レズリーが諭す。
「もはや、一刻の猶予もありません。もう、他に方法がないのです」
「しかしっ」
「いま、この機を逃すと」
レズリーの眉が苦痛を感じさせるほどにゆがみ、その目に悲しみが溢れる。
「この国は……悲惨な未来しか、のこされていません」
アルオーズがセシルに告げる。
「レズリー議員の予見は正確だ。いままで議員の考えていたことが、そのとおりになった事実を、わたしは何度も見てきている」
それでもセシルは納得できない。
──われわれは、子どもに頼らなければならないほど無能なのかっ
ワイアードが彼女を説得させようと、口をひらいた。
「ファーマイン。とにかく、これから行う作戦の話を最後まできくんだ。今回の作戦は」
彼は断言する。
「おまえがいないと、成功しない」
そして、モニタースクリーンを指差した。
「あの子、リナ・ジーグが大統領を殺害できても、おまえがいなければ、あの子を助けることができないんだ」
「………」
レズリーが付け加える。
「すべての責任は、わたしにあります。他の人たちに責任を負わせることは、絶対にありません」
ここにいる彼らは、最終的には大統領の暗殺を強引に実行するかもしれない。
だからといって割りきることのできないセシルだが、とりあえず、どういう作戦を行うのか話をきくことにするのだった。
ドノヴァンにここまで話したセシルは、ため息をついた。
「作戦は完璧だった。実行するまでに、紆余曲折はあったがな」
もっとも懸念されたのは、リナが己の能力を使いこなせるかではなく、本当にこの子が大統領を殺害できるのかという精神状態であった。その点は、ボルグ長官のレイズであるマインドコントロールでクリアするようにした。
しかし、セシルはまったく良い気がしなかった。まるで人間をロボットにするようなその能力に、彼女は嫌悪感しか抱けない。
また、子どもといえど空調ダクトの中を移動するのは、容易ではない。だが、リナは己の身体を包み込むように電流をぐるぐると発生させる。すると、リナの身体は発生した電磁力の作用で前に進む。垂直移動も問題なかった。
実際にダクトの模型を作り、何度も練習を重ね、やがて大統領暗殺の準備が整った。
そして、ダーモス・コーネンを亡き者とする日がやってくる。
セシルはドノヴァンに語る。
「これほどスムーズにいくとは思わなかったぞ」
その日、大統領官邸にワイアードとセシル、また情報局からボルグを含む三名の職員がやってくる。そのことについては、官邸に事前に連絡している。
情報局長官のボルグが、建物の入口に貼りついている警備員にいった。
「すでに連絡が入っていると思うが、官邸に爆弾がしかけられているという情報が当局によせられている。念のため、中を調査したい」
「話はきいております。どうぞ」
みんなは爆弾発見器や小型の脚立などを携え、セシルは大きなトランクを乗せた台車を押し進めながら官邸の中に入ってゆく。
官邸内を、二手に分かれて行動する。セシルはワイアードといっしょに電気室に入った。他には誰もいない。
彼女は、運んできたトランクを開ける。中に入っているのは、爆弾に関係する機器ではなく、アーマースーツを着たリナだ。
トランクから出てきたリナに、ワイアードはいった。
「窮屈だったか?」
リナは、こっくりとうなずいた。そんなリナに、セシルが告げる。
「あまりゆっくりしていられない。来るんだ」
そういうと、目的の制御盤のところへ足を進める。その真上には、空調ダクトがある。
セシルは制御盤にのぼると、片膝をつきながら空調ダクトの下側の一面を電磁カッターで正方形に切り抜いた。
そして、下で待っているリナを手で引っぱりながら、上にあがらせる。
「頭を打つなよ」
セシルは、制御盤の上にのぼったリナの目を見据えて、いった。
「やることは、わかっているな」
リナは、セシルの言葉に黙ったままうなずいた。




