◇ リナ・ジーグ
アルオーズが、大画面のモニタースクリーンへ映像を写す出力装着に、メモリチップを挿入する。
それは、今回の調査でワイアードとボルグが調べあげた集大成だ。
キーボードを操作すると、モニタースクリーンに大統領官邸が映し出される。
大統領官邸は三階建てで地下シェルターがあり、さらに屋上がある。官邸内外に監視カメラが設置され、万全の警備体制をしいているのは、いうまでもない。
アルオーズが説明にはいる。
「これが大統領官邸ですが、まず警備員の配置状態を調べてみました」
映像を順次、切り替えてゆく。
「以上のように、官邸の警備員が配置され、外部からの侵入を防いでいます。さらに」
もう一度、映像を切り替える。スクリーン画面には、官邸を上空から見た様子が出力される。
「三階建ての官邸の屋上にも警備員が配置され、官邸の周辺を上から見張っています」
ふたたび映像が変わる。これは、官邸の内部構造の見取り図だ。
「二階にある大統領の部屋は、ここです。もちろん、ドアの前には警備員が二人、貼りついています」
矢印のアイコンで大統領の部屋を示したあと、映像が一階の見取り図に変わる。
「これが一階です。作戦において重要となるのは電気室と思われますが、その扉は一階のここにあります」
アルオーズがキーボードを操作し、電気室の扉を矢印のアイコンで示した。
次は、空調のダクトの図面だ。
「官邸の設計図によると、空調のダクトはこのように設置されています」
ここで、ボルグが口をひらいた。
「部下のレミーに調べさせたが、設計図のとおりで間違いない。他の設備、電気室や監視制御室なども、機器の配置は図面どおりだということだ」
そこまできいたセシルは、妙だと思った。
──空調のダクトが、それほど大事なことだろうか?
ダクトの中をつたっていけば、大統領の部屋に侵入することができるかもしれない。だが、空調のダクトは、人が中に入って移動できるほど大きくはない。
子どもでなければ、無理だろう。
──毒ガスを使うのか?
この場合、ダクトは官邸内すべての部屋につながっているため、無関係の人たちを巻き込んでしまう。
毒ガスで大統領を殺害するのは、あり得ないといいきれる。
彼女は、誰ともなく訊いてみる。
「大統領の暗殺は、どのように?」
それには、ワイアードが答えた。
「あのダクトの中をとおって、大統領の部屋へ侵入する。そして、大統領を殺害するのだ」
不可能だ。
「ダクトの中? 無理でしょう。そんなことができる人間がいるのですか」
ボルグがうなずいた。
「ひとり、いる」
驚いた。目が点になっているセシルに、ボルグはその人物の名前を告げる。
「リナ・ジーグだ」
はじめてきく名前だ。いったい、どんなレイズを使うのか。
「どこの部隊に所属しているのですか?」
「いや、部隊に所属しているわけではない」
一度ならず、二度も驚かされる。部隊の人間ではないとなれば、一般人ということになる。
心なしか、ボルグの目が冷酷な光を放ったように思える。
「適任者を見つけるのに苦労したよ。この子は……」
セシルは、その響きに違和感を覚えた。
──この子?
続けて話すボルグの言葉に、セシルの全身が凍りついた。
「政府の養成学校の初等部に所属している、十歳の女子だ」
モニタースクリーンの画面左側に、リナの上半身が映し出される。右側には、リナの身体的なデータが表示されている。
セシルは、驚いたどころではない。絶句した彼女は次の瞬間、椅子から立ち上がって思わず叫んだ。
「こ、子どもに大統領を暗殺させるのですか!」
ワイアードがセシルの方に顔を向ける。
「落ち着け、ファーマイン」
無理だ。子どもに人を殺害させようとするその異常さを、当然のように受け止められる神経の方が、どうかしている。




