◇ 未知なる能力(レイズ)
市街地から離れた工業都市グランバードで、ラムド政府軍とシグマッハ反政府部隊が戦っている。
シグマッハ攻撃隊の火力が予想以上に高く、ラムドの部隊は圧されている。
「行け、ラムドを蹴散らせ!」
「おうっ」
勢いにのるシグマッハの部隊は、グランバードの最終防衛線まで迫ってくる。
シグマッハの本拠地指令部では、戦地グランバードでの戦いをドローンに搭載したカメラで監視している。
指令部にいるファルコ・ウォーゼス総隊長が、モニターの映像を見ながらニヤリと笑みを浮かべ、つぶやいた。
「ここを突破すれば、こっちのものだ」
そのときだった。ドゴーンッという爆発音とともに、部隊の先頭を走る装甲車が、地雷をふんだような爆撃を受けて吹っ飛ばされた。
編隊に急ブレーキがかかる。そこへ、ラムドの遊撃部隊が一斉に攻撃をかけた。
三台の装甲車が、瞬く間に破壊される。
後続の歩兵隊が、ひき返そうとしたときだった。指令部のモニターは急に映像が乱れ、やがてなにも映らなくなる。
ファルコはギリッと歯ぎしりする。
「くそっ、なにがあったんだ」
戦場の後方部隊から通信が入る。
「指令部、応答願います!」
ファルコがそれに応える。
「ウォーゼスだ。どうした」
「総隊長、前方の歩兵隊が一気に……」
部隊兵の言葉は、最後までは続かなかった。ジジッ、バシッという音がきこえたあと、通信が完全に途絶えた。
ファルコが思考を巡らせる。
──例のジーグというヤツが、やったのか?
歩兵隊も後方部隊も、こんな短時間で殲滅できるのは、ラムドの新たな戦力以外に考えられない。
通信が切れるまえに、雑音があった。
──電磁力……敵のレイズは、電撃か?
答えに近づいている。だが、部隊を一網打尽にするほどの絶大なレイズは、オズマ以外に見当がつかない。
もっと情報がほしい。それはラムドも同じだった。
山嶺地区のブレゼオでも、ラムドとシグマッハが戦っている。
シグマッハの本拠地は、この先にあるのだ。
ラムドの部隊も、シグマッハの防衛線を前に攻めあぐねている。
ラムド先進部隊の後方にいる支援部隊が、離れた場所で戦闘のもようを望遠カメラでとらえ、映像を本部に送信していた。
ラムド軍の本部では、現地の戦闘をモニターで見ている。すると、モニターに映し出された映像が突然、地震でも起きたかのように大きく乱れる。
司令官のワイアード・ロディオンが眉をよせる。
映像がもとにもどったとき、本部のモニターに映し出されたのは、燃えさかる業火だった。凄まじい炎が立ち上がったかと思うと、それは瞬く間に消えてゆく。
一瞬ですべてを焼き尽くしたかのようだ。
確認はできないが、敵の部隊にオズマがいる可能性が高い。
ラムドが知る、オズマに関する数少ない情報
──シグマッハの悪魔は、すべてを焼きつくす炎を使い、あっという間に殲滅する
その炎は、エルレアン合金で作られたアーマーをも炭と化し、人間は跡形もなく灰となる。極めて短い時間で焼きつくすゆえに、火が消えるのもはやい。
ワイアードの顔が、血の気を失う。映像が乱れた一瞬で、ラムドの先進部隊が全滅したのだ。
モニターから目にする現場の様子は、その事実を物語っている。しかし、具体的になにがあったのか、全然わからない。
支援部隊から連絡が入る。
「本部、こちらブレゼオ攻略隊の支援部隊、エルガーですっ。先進部隊が全滅しました!」
ワイアードが応答する。
「支援部隊、すぐにもどれっ。一人でも多く帰ってこい!」
「敵の攻撃が……」
本部のスピーカーから爆発音が響いたあと、通信は完全に途絶え、モニターの映像が映らなくなる。
シグマッハのミサイルによる一掃攻撃が、支援部隊を蹂躙する。
ブレゼオで戦っていたラムドの兵士は、誰一人として帰って来ることはなかったのだった。