◇ 十二年前の真実
ドノヴァンのレイズに苦しんでいた特機隊のみんなは、そのレイズから一気に解放される。
リナの言葉は、ドノヴァンが無意識に己のレイズを解除してしまうほどの絶大なショックを、彼に与えたのだった。
「ば、馬鹿な」
心臓が止まるかと思うほど驚嘆したドノヴァンは、ぎこちない動きで右手の人差し指をリナに向ける。
「七年前だろ。その子は、まだ十才くらいの子ども……」
セシルの声が、割って入った。
「だからこそだ」
彼女は、軽くなった身体をゆっくりと起こし、全裸になった状態のまま立ち上がった。
左手を腰にそえて、あきらめたような顔になり、ため息をついた。
「仕方ない。おまえには、本当のことを話そう」
彼女はドノヴァンの目を見すえる。
「ダーモス・コーネン元大統領暗殺の、すべてを」
セシルの口から、その真実が語られる。
ドノヴァンは油断せず警戒をゆるめないよう、己を守る重力のレイズを自身に施し、彼女の話をきく態勢に入った。
話は、十二年前にさかのぼる。ある日の深夜に、レズリー・マット議員へ緊急連絡が入った。
「なんですって? 大統領が!」
レオパルド大統領が、何者かに襲撃されたという知らせである。
彼女は大統領官邸へ急行する。そこには、他の議員たちも次々に集まってきていた。
副大統領のダーモス・コーネンが、顔を真っ赤にして憤っている。
「大統領を護衛する者たちは、なにをやっていたんだ!」
襲撃を受けた大統領は病院に運ばれたが、そのときはすでに絶命していたという。
急遽、議員たちが官邸の一室に集まって、緊急会議がひらかれる。
そこで、副大統領だったダーモスが次期大統領となることを、満場一致で決定する。
レズリーは、ダーモスがレオパルドの意志を引き継ぎ、平和路線を歩むものだと思っていた。ところが、これがまったくちがったのである。
ダーモスは、シグマッハに対して武力で徹底的に叩き潰そうとした。
レオパルドを襲った犯人が誰なのかもわからないうちに、大統領を殺害したのはシグマッハだと民衆に広め、シグマッハは殲滅すべきだと国民を煽った。
レズリーから見たダーモスは、まるで別人だった。
──なぜ?
彼女は困惑し、戸惑う毎日を送ってゆく。月日が経つにつれて、戦況はどんどん悪化していった。
なにもかもが軍事優先となり、なにをするにもレイズを使える者が優遇され、一般人との格差が広がってくるようになった。
ここまで話したセシルは、ドノヴァンにいった。
「おまえも、その犠牲になった一人だろう」
「………」
彼女は話を進める。
レズリーは、もっと平和的に事を進めるべきだと会議で進言し、またレイズを使える者と一般人との格差をなくさなければならないと訴えた。
しかし、それはまったくきき入れられなかった。
「もう、後もどりはできない」
そのひと言で片付けられてしまう。
シグマッハを武力で壊滅する以外に道はないようにすべてが進められ、事実そうなってしまった。
そして歳月は流れ、五年が経とうとしていた。
レズリーは、苦悩が渦巻くなかで考える。
「なぜ、こうなってしまったのだ?」
妙だと思うのは、レオパルド殺害についてだ。すべてはここから狂っていった。
いまだに犯人はわからない。
彼女は、自分が信頼できる人物に調査を頼んだ。当時、ラムド防衛部隊の大隊長だったワイアード・ロディオンだ。
調査の結果、厳重な警備のなかで外部の人間が大統領を殺害するのは、無理だとわかった。
すなわち、これはシグマッハの犯行ではなく、ラムド内部の人間によるものである。
それでは、いったい誰がレオパルド大統領を亡き者にしたのか。そこまでは解明できなかった。
だが、あの日、大統領官邸にいた者が誰であったかを把握することはできる。
副大統領だったダーモス・コーネンも官邸にいた一人だった。




