◇ ウルトラシークレット
メディカルチームの三人が、急いでリナのところまで行く。
白衣姿の彼女たちはグランドランサーから降りると、マスターのティナ・フォーゼリエが冷静に指示を出した。
「パーセル、子どもをお願い」
「了解」
「チェルゼ、ジーグの止血を」
「はいっ」
マーサ・チェルゼはリナのインナースーツを素早く脱がすと、両手を傷だらけの背中にかざした。
彼女には治癒能力がある。ビーム弾を受けた背中の傷が、徐々にふさがってゆく。だが、これは一時しのぎの処置にすぎない。
ティナは、己のレイズを全開にする。彼女には、最新医療検査設備のすべての機能が備わっている。いわば、人間医療検査機器だ。
脈拍、呼吸、傷の深さ、出血状態、血圧、血液中の成分、細菌の有無、これらを瞬時に把握する。
「危ない状態だけど、急いで処置すれば、なんとかなるわ」
ロラン・パーセルは子どもを抱きかかえ、安心させようとする。すでに泣き止んでいるが、目の前で起きた壮絶な事態に、ひどくショックを受けているようだ。
彼女たちの様子を黙って見ていたドノヴァンが、セシルに向かって口をひらいた。
「ダーモス・コーネンは、どこにいる」
セシルは答える。
「とっくに死んでいる。知らなかったのか?」
そういうセシルに、ドノヴァンのレイズがいきなり襲いかかる。彼女の頭上から、ズンッと圧力がのしかかる。
「ぐっ」
思わず膝をついたセシルに、ドノヴァンはいった。
「俺に嘘がつうじると思うな」
「う、嘘ではないっ」
「本当のことをいえ!」
ズズズンッと、地面が揺れる。セシルの背後にいる部隊の全員が、ドノヴァンの圧力に押し潰されそうになる。
「うあっ」
「ぐおお」
ドノヴァンは、冷たい目をして語った。
「みんなで死ぬ方を選ぶか?」
セシルだけなら、この状況から逃れることができる。だが、部下たちを見捨てて自分だけ助かることなど、できるわけがない。
ドノヴァンが、さらなるレイズを発動する。みんなの身体が、じわじわと熱くなってくる。
以前、このレイズを味わっているレミーは焦った。即座にセシルに伝える。
「隊長、アーマーの解除を!」
それをきいたセシルは、後ろを向くなり声をはりあげた。
「全員、アーマーを解除しろ、はやくっ」
このままの状態でいると、アーマーを装着したまま内側から蒸し焼きになってしまう。全隊員のアーマーが解除されたが、それでも熱はおさまらない。インナースーツが、溶けるようにボロボロになってゆく。
だが、ドノヴァンは容赦しない。
「話せ。ダーモス・コーネンは、どこにいる」
不意に、うつ伏せになっているリナが、ドノヴァンの方に顔を向けると口をひらいた。
「ダーモス・コーネン……元大統領は……」
リナを治癒しているマーサが、あわてたように声をあげる。
「しゃべらないで、じっとしててっ」
しかし、リナはドノヴァンに必死で伝えようとする。
「暗殺……されたのです……」
ドノヴァンの顔が、ひきつった。
驚いたのは、彼だけではない。リナの近くにいるメディカルチームの三人は、リナの言葉に息が止まりそうになった。
セシルが怒鳴る。
「黙れ、ジーグっ」
リナは言葉を続ける。
「この人には……知る権利が……」
セシルは大声で叫んだ。
「ウルトラシークレットだぞ!」
ドノヴァンは、リナが嘘をいっているとは思えなかった。セシルのあわてふためく様子が、ふつうではない。
ティナは、リナがウルトラシークレットを知っていることに愕然となった。
親友のセシルが自分を差し置いて、まだ二十歳にもなっていないリナにウルトラシークレットを打ち明けるなど、そんなことがあるだろうか。
信じられない。そもそもウルトラシークレットは、誰にも知られてはならないものなのだ。
誰かに話したことがわかると、大統領も出席する裁断会議にかけられて処刑されてもおかしくはないのである。




