◇ 急展開
リナは、自分に敵意を抱くことのないドノヴァンやノーティスとの戦いは避けたい。
また、ドノヴァンとノーティスも、リナとは戦いたくないと思っている。
だが運命は、そういう彼らの想いをゆるさなかった。
エルジダンにある酒場で、シグマッハの兵士たちが酒を飲みながら話している。
「いまいち、攻めきれねえんだよなあ」
「やっぱりラムドの特機隊が、あれがやっかいだよな。ここぞというときに、邪魔してくるからな」
「あいつらさえいなければ、俺たちの方が圧倒的に勝ってるんじゃねえか?」
彼らがたむろしているテーブルから離れたところに、ドノヴァンがいる。カウンターの椅子に座るドノヴァンは、彼らの話をきくともなくきいている。
「次の戦いは、大がかりな戦闘になるらしいぜ。くわしいことは、わかんねえけどよ」
「一気に片をつけた方がいい。ラムドの人間を、皆殺しにしちまおうぜ!」
「生きる価値がねえやつらは、ぶっ殺しちまえばいいんだよ。ワハハハ」
ドノヴァンは、冷めた目をしてグラスをかたむける。
──こいつらに、それほど生きる価値があるとは思えないが
彼は、うんざりした気分で店を出る。
「次の戦い、か」
確かに、大がかりな戦闘になりそうだ。もし、リナが来れば……いや、彼女は必ず来るだろう。
──俺かあの子か、どちらかが……
命を落とす。きっと、そういう戦いになる。
敵同士であるのが悲しい。しかし、決戦の日は着実に近づいている。
ラムドとシグマッハの抗争は、急展開を迎える。
規模の大きな街イグレシアが、戦闘警戒指定都市になった。人口が密集している地域はまだ安全であるが、ラムド軍がウルティーバの町を守れず、ここまで進行をゆるしたのは誤算だった。
シグマッハが怒涛の勢いで押し寄せてくる。その中にドノヴァンがいる。
彼らがイグレシアの都市にのり込んでくると、被害が甚大となるのは明らかだ。
ラムドは、なんとしてもウルティーバでシグマッハの進撃を食い止めたかったが、ドノヴァンのレイズはあまりにも凄絶だった。
特機隊がウルティーバではなくレグニールへ向かい、ひき離されたのも痛かった。
だが、これは仕方がなかった。レグニールを突破されると、発電炉があるヨグノスに侵攻されてしまう。そうなると、被害は尋常どころではなくなってしまう。
シグマッハはシグマッハで、レグニールへ向かった部隊がヨグノスにたどり着けずに特機隊に壊滅させられたのは、誤算だった。
ラムド軍は、先進攻撃部隊と迎撃部隊を出動させており、さらにセシル率いる特別機動部隊をイグレシアへ呼び出した。
迎撃部隊は人口密集地域を守るべく、その防衛線で待機。先進部隊と特機隊が前線に出る。
シグマッハの攻撃は激しく、先進部隊も応戦するが、敵は怯むことなくジリジリと前に出てくる。
やはり、ドノヴァンのレイズが脅威だ。下手に突っ込んで行くと、重力のレイズで押し潰される。
先進部隊の後方にいるセシルは思う。
──まずは、オズマをなんとかしないと……
このままでは先進部隊が全滅してしまう。戦っている彼らは、どんどん負傷者が増えている。
セシルは先進部隊隊長のラインバッハに、ヘッドギアのインカムで連絡する。
「われわれが行く。下がってくれ」
「ファーマイン隊長、敵の攻撃が予想以上にきつすぎる」
「シグマッハの悪魔を、どうにかしなければダメだ。わたしとジーグでやってみる」
「了解、頼んだ」
通信を終えたセシルは、リナの方をふり向いた。
「飛ぶぞ」
「はい」
セシルはリナを右腕で抱きかかえると、前方に見える建物まで瞬間移動する。
先進部隊が下がり、代わりに特機隊の隊員たちが上がってくる。彼らがセシルとリナを援護する。
飛び交う銃弾は止むことなく、ラムドとシグマッハの戦闘は激しさを増してゆく。




