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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ノーティス
23/91

◇ 素顔

 ルカーラでの戦いから、七日が過ぎた。


 シグマッハの部隊も動く気配はなく、久しぶりに休みをもらったリナは、ユードルトのとなり街であるアイロブの繁華街に出かける。


 久しぶりに着るスカートが、リナを戦闘員からふつうの女の子に変える。


 花屋の店先に、きれいな花がならんでいる。近くまで行って見とれていると、誰かが店の中から出てきた。

 その人物を見るなり、リナは驚嘆する。リナに会った相手も驚いている。


 彼は、リナに声をかけた。


「あれ、リナちゃん?」


 警戒心がリナの全身をおおいつくす。


 ──ノーティス……保護色のレイズ


 なぜ、こんなところにノーティスがいるのか。ここは、ラムドの領域である。


 彼は、まるで親しい友人を相手にするように、リナに話しかけてくる。


「まさか、君がここにいるとは思わなかったよ」


 こっちのセリフだ、と彼女は思う。


「リナちゃんも、花を買いに来たの?」


 そうではないのだが、彼がここで花を買っていることが意外でならない。


 思わず彼に向かって口をひらいた。


「その花を買うために、わざわざここまで来たのですか?」

「うん」


 冗談かと思った。ところが、冗談ではないらしい。


「リナちゃん、これからどこか行くの?」

「いえ、別に……」

「ちょっと歩こうか」


 それは避けたい。しかし、彼の次の言葉が、リナの心を揺さぶるのだった。


「俺のこと、知りたいだろ。話せる範囲で教えてあげるよ」


 結局、リナはその誘惑をはねのけることができなかった。

 彼女はノーティスとならんで歩く。彼にはまったく敵意を感じないのを不思議に思うリナである。




 いっしょに歩くリナに、ノーティスは自分のことをポツポツと語りはじめる。


「俺は、この街で育ったんだ」


 リナの驚いた目が、ノーティスの顔に釘付けになる。てっきり、彼はラムドからずっと離れた地域の人間だと思っていたのだ。


 しかも、ここアイロブの街は、裕福な貴族たちが住んでいた街だ。シグマッハがもっとも壊滅に力を入れていたのが、この街である。

 至るところで火の手が上がり、多くの人々が虐殺された。そのほとんどは貴族だ。


 この街を占拠されたラムドは危機的状況に陥ったが、多数の部隊をここに集結させ、一気に片をつけて奪還する。

 片をつけたといっても、正確にはラムド軍が到着したときには、シグマッハの部隊はほとんど撤退していたのだが。


 一度、壊滅状態になったアイロブの街だが、どうにか復興して平和な街としてよみがえったのである。


 ノーティスは話を続ける。


「家族は誰もいない。俺は、一人っ子でね」

「………」

「俺の人生は、ドノヴァンと似たようなものかな。あいつも、不幸な日々を送っていたんだ」


 知っている。リナはドノヴァン自身からきいている。


 リナは彼に尋ねてみる。


「ご両親は、殺されたのですか?」

「父さんは、そうだ。母さんは、父さんが死んだショックで倒れて、ベッドから起き上がることは二度となかった」


 話をきいているリナは、妙に疑問に思う。父親がシグマッハに殺されたのなら、なぜ彼はシグマッハに身をよせているのか?

 しかし、彼が嘘をいっているとは思えない。頭が混乱してくる。


 ノーティスがリナに顔を向けた。


「ドノヴァンが、いってた」

「え?」

「君も、悲しい過去を背負っているんだろう」

「………」


 ノーティスはドノヴァンと同じ目をしている。リナはそう感じた。

 瞳の奥にひそむ、その哀しみ。


 ──この人も、悲惨な人生を


 だからこそ、相手の悲しみがわかるのではないか。


 リナがなにもいわずにいると、ノーティスが口元をゆるめる。


「俺もあいつも、リナちゃんみたいな妹がほしいと思っているんだ」


 リナは唖然とした。自分は敵なのに、この男たちはなにを考えているのか。


 微笑む彼は、歩きながらリナに告げる。


「そろそろ、お別れだね」


 リナは、ハッとした顔になる。ききたいことは、まだたくさんあるのだ。

 しかし、それはかなわなかった。


「また会おう、リナちゃん」


 ノーティスはリナの前で、その姿を徐々に消してゆく。


「待って!」


 自分の姿を完全に消し去った彼は、最後までリナに笑顔しか見せなかった。




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