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レイズ・アライズ  作者: 左門正利
◆ ダブルレイズ
19/91

◇ 戦慄

 セシルたちがレミー・モルダンと合流し、三十メートル進んだところで、レミーはふたたび確認する。


「誰もいませんね。これなら……?」


 急に口を閉ざしたレミーに、セシルは顔を向ける。


「どうした、モルダン」


 レミーは前を見据えたまま、なにもいわない。セシルがふたたび問いただす。


「モルダン、なにかあったのか?」


 レミーは戸惑うように口をひらいた。


「なにか動いたような……いや、気のせいだと思います」


 彼女にしては、めずらしく煮え切らない返事だ。セシルは肌で感じる。


 ──このまま進むと、やられる


 レミーの様子が、そういう危機をセシルに教えている。


 二十メートルほど先に、倒壊しかけた建物がならんでいる。その向こう側は、肉眼ではよくわからない。


 セシルは、抗戦部隊に前には出ずに、その場にとどまるよう通信で伝える。


 下手に動くわけにはいかなくなった。どうしたものかと考えていると、不意にリナが声をかけてくる。


「前方に、なにかあるのですね。わたしが行きます」


 セシルは、いささか驚いた。


「危険かもしれないということしか、わからない状態だ。モルダンでも確認することができないんだぞ」

「わたしは、電磁波の揺れで動いているものを感知できます」


 そういう能力を逆手にとり、こちらを誘い出す罠であるような気もする。

 セシルは思考を巡らせる。しばらくして、レミーの方をふり向いた。


「違和感があったのは、どのあたりだ?」

「前方の崩れかけの建物から、さらに五十メートルほど奥です。ここから、七十メートルほどの距離ですね」

「誰かが移動する足音はきこえなかったか」

「風の音がけっこう大きく、そこまでは……」


 安全といえる距離ではないが、そこそこ離れている。セシルはリナに指示を出す。


「ジーグ、あの崩れかけた建物まで行き、様子を見るんだ。なにかあれば、インカムを使わず手で知らせてくれ」

「了解しました」


 声を出すと、もし相手が近くにいた場合、わざわざ位置を知らせるようなものだ。


 セシルは、後ろにいる隊員たちに命令する。


「おまえたちは、ジーグを援護しろ」

「了解!」


 リナは腰にある銃を手にとり、素早く前に出る。銃の方が、レイズより精神集中による負担がかからないぶん、精神的に疲れない。だが、警戒心は必要だ。


 二十メートルの距離を一気に走り、中央より左にある建物の影に隠れる。その間、敵の襲撃はなかった。


 片膝を落とし、前方をのぞき見る。誰もいない。身体を起こしながら、慎重に歩を進める。電磁波の揺れは感じない。


 リナは、左手の人差し指を上に向けて、くるくる回す。それを見たレミーが、セシルにいった。


「誰もいないようです」


 セシルはリナに通信を送る。


「もっと前に移動できるか」


 ヘッドギアのインカムでそれをきいたリナは、左手の親指を立てた。「できる」という合図だ。


 セシルはリナに伝える。


「次の壁まで進むんだ。こっちも前に出る」


 リナは、さらに動く。壁にピタリとひっつき、しゃがんだ状態で前をのぞいた。

 誰もいないと思ったとき、妙な違和感が彼女の動きを止める。


 リナは電磁波の揺れに集中しようと、目を閉じる。次の瞬間、右から左になにかがよぎった。肌で感じる電磁波の揺れが、違和感が本物であったことを教えている。


 リナは、隠れていた壁から前に出ると、左を向いて両手で銃を構える。

 だが、そこには誰もいない。


 ──確かに、なにかが……


 刹那、レミーの叫ぶような声が、ヘッドギアのインカムから響いた。


「ジーグっ」


 続く彼女の言葉が、リナの身体に戦慄を走らせる。


「オズマがいる、おまえの真後ろだ!」


 リナは銃を構えたまま、百八十度ふり返った。


 すぐ目の前に、ドノヴァンが立っている。



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