◇ 形勢逆転
抗戦部隊と合流したセシルは、隊長のグレイスから話をきく。
「──というわけなんだ。焦って動いたのが失敗だった。わたしのミスだ」
セシルは腕を組んで思考を巡らせる。グレイスの考えた作戦そのものに、ミスがあるとは思えない。彼が考えたことは常套手段といってよく、誰でも真っ先に思いつく作戦だ。
おそらく、敵はグレイスの考えを上回るカードをもっている。
──モルダンのようなレイズがある者が、シグマッハにもいるのか?
ラムドが警戒しているシグマッハの人物に、そういうレイズを使える者は確認できていない。
だが、自分が知っている情報だけがすべてではない。情報局にも、まだつかみきれていないことは多々ある。
セシルは、副隊長のレミー・モルダンに声をかけた。
「モルダン」
「はい」
「ジーグと二人で、先頭にいる隊員たちと合流してくれ」
「そのあとは?」
「おまえのレイズで、敵の位置を探るんだ。ジーグのレイズでなんとかなるようなら、前進する」
「わかりました」
「ただし」
戦局を左右するのは、あの男だ。
「オズマがいるとわかったときは、そこから動くな。危ないと思ったときは、すぐにひき返せ」
「了解しました」
レミーは、リナを連れて前線にいる抗戦部隊のところまで進んでゆく。
彼らの元まで来たレミーは己のレイズを解放すると、ヘッドギアのインカムでセシルに状況を報告する。
「前方三十メートルの建物の影に、複数の敵がいます。中央に五人、右に三人いますね。そいつらの左後方十メートルに、ランチャーを備えた敵がいます」
それをきいたセシルは、攻撃命令を出した。まずランチャーの敵に、こっちのランチャーで仕掛ける。
いきなりの虚をついたような攻撃に、最前線にいるシグマッハの兵隊たちは、おののいた。
まさか前にいる自分たちではなく、ランチャー隊員を正確に狙ってくるとは夢にも思わない。
けたたましい爆発音のあと、抗戦部隊が一斉に銃撃を開始する。
彼らの後方にいる味方の隊員たちも、前に出てくる。ランチャーを携える隊員が、遠くにいるシグマッハの敵を立て続けに攻撃する。
その間、リナは素早く建物の左側へまわった。
リナの存在に気づかない敵に、リナはレイズを発動する。彼女は十メートルほど離れている敵に向けて、左腕を前に出した。
バリバリッと電撃が走る。
「ぐあっ」
「うごおっ」
リナの腕から放たれた電磁波が、投網で魚をとらえるように、中央にいた五人の敵を束縛する。彼らは身体がしびれて動けない。
兵士たちが装備する防御スーツは、耐衝撃にすぐれたエルレアン合金が使用されるのだが、感電を防ぐための絶縁物をコーティングすることが不可能なのが欠点だ。電撃の影響をもろに受けるのである。
束縛状態にある彼らの向こう側、五メートルほど離れたところに三人の敵がいる。異変に気づいた兵士たちは、リナに銃を向けた。リナの電磁波が彼らに向かってアークする。この三人も続けざまにとらえた。
リナのレイズは、これだけではない。彼女は人差し指をのばした右手を、左手首の下側に添えるようにして、にぎる。
次の瞬間
バギュンッ!
敵を束縛する電磁波を伝うようにして、稲妻のごとく電撃が、とらえた八人の身体を貫いた。ほんの一瞬で、彼ら命はこの世から消し飛んでしまった。
リナはドノヴァンと同じく、二つのレイズを個別に発動できるダブルレイズである。
さらに後方にいるシグマッハの援護隊員たちは、その様子を確認することができない。ラムド部隊のミサイルランチャーの攻撃で土煙が舞い、前方でなにが起きているのかわからない状態だ。
ラムドの部隊がシグマッハを圧し返す。第二ラインを守りきり、第一ラインまで前進する。
そこで銃撃が止む。不気味な静寂がただようなか、最前線にいるセシルが、そばにいるレミーに確認する。
「敵はいるか?」
「前方百メートル内には、いません」
「よし、進もう」
セシルの部隊と抗戦部隊が左右に分かれて前にでる。




