◇ 戦地ルカーラ
その後も、ラムドとシグマッハの小競り合いは続く。
だが、大きな戦闘に発展することはなかった。天候が悪い日が続き、双方とも作戦を思うように進められない。
嵐にみまわれたときは、両軍ともに戦地から撤退した。
ラムドのワイアード・ロディオン司令官そしてシグマッハのファルコ・ウォーデス総隊長は、この先、そう遠くない日に熾烈な戦いがはじまることを予測している。
いまは、極力ムダな犠牲を出すのは避けたい。二人とも、考えることは同じだった。
曇り空のなか、戦闘区域に指定され住民が避難したルカーラの地で、ラムド軍とシグマッハの部隊が相対する。
これが、思ったよりも激しい戦闘となってゆく。
ラムドとしては、この地を陥落されるわけにはいかない。シグマッハにすれば、ここを制圧できるかどうかで優位性が大きくちがってくる。
ユードルトで待機しているセシルに、ワイアードから応援の要請が入った。通信隊員のイレーナが、セシルに伝える。
「隊長、ロディオン司令官から連絡です」
セシルが即座に応答に出る。
「ファーマインだ」
ワイアードの焦ったような声が響く。
「至急、ルカーラへ向かってくれ。あそこを落とされるわけにはいかない」
「わかった。特別機動部隊、これよりルカーラへ出撃する」
「頼む」
セシルは司令を出した。
「全戦闘隊員、ルカーラに向かう。発進準備!」
イレーナが、それを基地内スピーカーで隊員たちに伝える。
ルカーラにいる抗戦部隊は、けっして層はうすくない。進撃と遊撃を備えたこの部隊は、セシルの特別機動部隊同様、エリートぞろいの特殊部隊である。
そんな彼らが特機隊に応援を要請する事態に陥るのは、よほど苦戦を強いられているのであろう。
セシルは懸念する。
──あいつが、いるのか?
ドノヴァン・オズマの存在。この男がルカーラにいるのといないのとでは、街全体の被害や犠牲者の人数など、戦況が大きく異なってくる。
セシルは気をひき締め、隊員たちを連れてルカーラへ出発するのだった。
その部隊のなかには、当然リナもいる。
ルカーラでは、ラムドの抗戦部隊がシグマッハに圧され、じわじわと進撃をゆるしていた。
部隊長のグレイスに、前線で戦う兵士から連絡が入る。
「第二ライン、これ以上もちそうにありませんっ」
グレイスは怒鳴った。
「死んでも守れっ。守りとおせ!」
すでに第一ラインを突破され、この第二ラインまでも破られると、圧倒的に不利になる。
第三ラインが崩されれば、終わったも同然だ。一気にたたみかけられて全滅するのは目に見えている。
それにしても
──これほど苦戦するとは……
お互いの車両はすべて破壊され、膠着状態が続くなか、主導権をにぎろうと先に動いたのがまずかった。
ものの見事に返り討ちに合い、大事な戦力を失った。
数人ずつ分散して進ませた兵士たちは、その行動をあらかじめ読まれていたかのように、的確に狙い打ちされて命を落とした。
──なぜ、こうなった?
グレイスは、さっぱりわからない。ここまで窮地に立たされるとは思わなかった。まるで罠にはめられたごとく、敵の迎撃が完璧すぎる。
だが、己のミスであることに変わりなく、動揺する想いが顔に出そうになる。それを他の隊員たちに悟られないよう必死のグレイスだが、悪いことばかりでなかった。
隊員のひとりが、彼に伝える。
「グレイス隊長、特機隊がまもなくやって来るようです」
絶望の暗闇のなかに、一条の光がさした。
彼らに賭けるしかない。




