◇ エルジダン
エルジダン──シグマッハの本拠地は、この街中にある。
この街を占拠できたのは、シグマッハにとって大きかった。街の近辺では、武器や防具などの原料となるエルレアンという金属が豊富に採取できるのだ。
レイズには攻撃以外にも、こういう原料を元として様々な物質を作り上げ、また加工するという能力も存在する。
シグマッハにそういうレイズを使える人材がいることが、この組織の強さの秘訣でもある。
また、レジスタンスといっても別に隠れているわけではなく、本部は地上にあり、入口には警備員が二人いる。
ドノヴァンが本部に帰ると、警備員から声をかけられる。
「オズマさん、ウォーゼス総隊長がお待ちしています。作戦会議室へ来るようにとのことです」
「ああ、わかった。ご苦労さん」
シグマッハは、単なる「ならず者」の集団とはちがう。
上下関係は厳しく、組織の規則をやぶる者は、容赦なく処刑する。そうでなければ、仲間うちでの争いが頻繁に繰り返され、収拾がつかなくなれば組織として成り立たなくなる。
統率のとれた殺戮集団の組織は、非常にやっかいだ。シグマッハはレジスタンスの部隊ではあるが、ふつうのゲリラとはちがう。
ラムドから見れば、エリートたちをかき集めた精鋭部隊にひとしいと認識している。
ドノヴァンが本部の作戦会議室に入ると、幹部たちが円卓をかこんで座っていた。
総隊長のファルコ・ウォーゼスが、ドノヴァンに向かって口をひらいた。
「来たか。ラムドの部隊とは遭遇しなかったんじゃないか?」
「ああ。あいつらの部隊は、来なかったよ」
「やはりな。バルセダンで、こっちの部隊がラムドとはち合わせしたんだ。おまえが待っていた部隊が、バルセダンに向かったのではないかと考えていたところだ」
正解である。シグマッハも、こういう事態になるのは予想外だった。
それで自然に双方が戦う状態になってしまったが、たいした犠牲が出ないうちに、ひき返すよう指示を出したのだった。
ドノヴァンがファルコに告げる。
「収穫は、あったよ」
「どんなことだ?」
「ジーグに会った」
それをきいた全員、声も出ないほど驚き顔をピキッとひきつらせる。
「かわいい女の子だったよ」
「女の子?」
「十七歳って、いってた」
「こ、子どもじゃないか!」
一度ならず、二度も驚かされる。ドノヴァンとファルコの会話は続く。
「もう一人、副隊長クラスの女戦士がいたな。建物の外からでも、中の様子がわかるみたいだった」
「やっかいな能力だな」
「確か、モルダンという名前だったと思う」
「その名は、きいたことがある」
幹部の一人、ディガー・ムーアがファルコに伝える。
「ファーマインの右腕と呼ばれる女ですよ。どんなレイズを使うのかわからなかったのですが、オズマのいうことが本当なら、かなり手強いですね」
別の幹部であるガラハッド・ベルコが、オズマに訊いた。
「そいつらを始末したのか?」
「しないよ」
「なぜだ!」
「できるだけ情報をきき出すのが重要だろ。敵は、あの二人だけじゃないんだぞ」
ガラハッドは「チッ」と舌打ちする。この二人は、仲が悪い。
もっとも、ドノヴァンと仲が良いといえるのは、シグマッハにはほんのわずかしかいない。
ファルコが、彼らの間に割って入った。
「肝心のジーグのレイズは、どんな能力なんだ?」
「それを探り出すまえに、俺の正体がバレた」
「戦闘にならなかったのか」
「お互いに相手の能力がわからないのに、無謀なことはやらないよ。どうせ、また会うことになるさ。必ずね」
ファルコもそう思う。これから二人が相見える日が、幾度となく、やってくるだろう。
──いつかは、われわれとラムドが雌雄を決する日がくる。そのときは……
ファルコの顔つきが、より険しくなった。




