◇ 脅威の能力
メディカルチームの彼女たちが、リナとレミーに上着をきせる。そして二人の身体にセンサーをとりつけて、マーサ・チェルゼがバイタルデータをチェックする。
マーサは、安心したように口をひらいた。
「特に異常はないですね。ただ、身体の水分が少ないようです」
そういう彼女に、レミーが訴えるようにいった。
「チェルゼ、のどが渇いた。なにか飲みたいんだけど」
「わかりました。すぐに、とってきます」
マーサは飲み物をとってくるため、ホバーランサーにひき返した。
その間、リナがセシルに報告する。
「あの人の能力について、わかったことがあります」
あの人とは、もちろんドノヴァンのことだ。
「なんだ?」
「あの人の能力は」
表情が固くなる。彼はまったく本気ではなかったが、こっちは死を覚悟した。
「完全なダブルレイズです」
セシルは驚嘆する。
「なんだとっ」
彼女の目が大きく見開かれ、叫ぶような声がその口から出る。
「ヤツのレイズは、炎だけではなかったのか!」
レイズを使える人間は、ふつう一人に一つの能力しか備わっていない。複数のレイズを個別に扱える人間は、まずいないのだ。
単純に考えて戦闘能力が倍となり、さらにレイズの相乗効果によっては、とてつもない威力を発揮して想像をこえるダメージを相手に与える。
戦場では十数人、あるいはそれ以上の隊員を擁する部隊が、ダブルレイズを有するたった一人の人間に殲滅されることもあるのだ。
ちなみにレミーについては、すぐれた視覚と聴覚のレイズを備えるが、その片方だけを任意に発動することはできず、彼女の場合はダブルレイズと認められていない。
リナが、わかっている範囲で説明する。
「彼は、重力を操ります。それも、かなり強力です」
セシルは戦場跡のクレーターを思い出す。いま考えれば、クレーターができるほどの重力が、広範囲にわたって作用していたのだ。
ミサイルでも使ったのかと考えていたが、その破片が見当たらないので、おかしいとは思っていた。
彼女の顔から、冷や汗が流れる。
「おまえたち、よく生きてたな」
レミーが眉をしかめ、困惑した想いを顔に浮かべた。
「あの男は、なんというか……」
危険な男にはちがいないが、むやみに殺戮に走る殺人鬼とはちがう。シグマッハには当てはまらない人物だ。
レミーはうまく説明できない。かわりに、リナがドノヴァンをひと言で、いいあらわした。
「とても変わった人でした」
そうとしかいいようがない。
ロラン・パーセルが、リナたちに質問する。
「アーマースーツは、どうなったのですか?」
セシルも気になっていたところだ。リナとレミーは、すぐ後ろをふり返り、転がっているアーマーの部品を指さした。
援護隊員を数人呼んで、そのアーマーを回収させる。
ロランが、落ちているアーマーの部品を手にとった。
「これは……」
彼女のレイズは、部品の外側からでも内部構造をミクロ単位の細かいところまで解析できる能力だ。レミーと同じようなレイズだが、彼女にくらべると能力が発揮できる範囲は非常にせまい。そのかわり、より詳細な部分まで確認できる。
「内部が熱でやられてますね。ところどころ、回路が焼かれています。この状態は外側からではなく、内側から?」
セシルは、リナとレミーに告げる。
「ホバーランサーの中で、くわしい話をきこう」
そのとき、マーサがもどってくる。彼女は持ってきたドリンクを、レミーとリナに手渡した。
そのマーサに、チームマスターのティナが伝える。
「ホバーランサーにみんなは乗れないから、あなたはトラックに乗って」
マーサは、イヤだという想いがあからさまに顔に出る。
「ええー、なんでわたしが、あんなむさ苦しい男たちといっしょに乗らなきゃならないんですか」
ティナが眉をよせる。
「行きなさいっ」
「は、はいっ」
あわててトラックに走ってゆくマーサを見て、ティナはため息をついた。
「ハァー。まったく、あの子ったら」
レミーが、忘れていたことをふと思い出す。
「隊長、ユングが運転するグランドランサーを、ヤーパスに待たせています」
「わかった。呼びもどそう」
セシルがみんなに告げる。
「よし、帰ろう。全員、ただちに帰還する!」
彼らは、ホバーランサーとトラックに分かれて全員が乗り込むと、ベルムングに向けて帰還するのだった。




